第349話 護衛任務志願
統一歴九十九年五月二日、午前 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
普段、彼らはリュウイチが起き出す前に自分たちの朝食を済ませ、身だしなみを整え、リュウイチたちの朝食の準備を整える。次にリュウイチが食堂で朝食を摂り始めると、ほぼ総員で
それでも、今の彼らは本来なら何らかの仕事をしているはずであった。そして、リュウイチは彼らの清掃作業を邪魔しないようにするために、こうして居間代わりに使っている食堂で時間をつぶしているはずなのである。
『それで、改まって話って何ですか?』
「ハッ!
全員が直立不動の姿勢でリュウイチの背後の壁の上の方を睨んだまま、やはり同じように直立不動で上の方を睨んだネロがやや上ずった声で発言する。どうやら彼が代表らしい。まあ、元々ネロは彼らの
『あ、うん、そうだね。それが?』
「ハッ!
『警護?』
「ハッ!
その……
要するに彼らは出かけたいのだ。リュウイチに出会って魔法で眠らされて以降、ずっと身柄を拘束され、危うく死刑にされるかと思いきやリュウイチの奴隷にされ、その後はほぼずっとリュウイチと共にこの陣営本部に缶詰めにされているのである。
いや、リュウイチに比べれば陣営本部周辺であれば出歩くこともできるし、陣営本部の向かいに設置された
だが、彼らが慣れない奴隷生活でフラストレーションを溜めているのも事実だった。
『そうは言ってもなぁ……警護はクィントゥスさんの部下がやるらしいよ?』
リュウイチがそう言うと奴隷たちに動揺が広がる。
「ど、どれほどの兵がつくのでしょうか?」
『たしか、三個
奴隷たちがあからさまに動揺し、互いに顔を見合わせたりしはじめる。
レーマ軍の標準的な
もちろん、これらの戦力は全員がルクレティアの警護というわけではない。ルクレティア一行にはアルビオンニウムに上陸する
「ご、護衛戦力としては、そ、それで十分かも知れませんが……」
明らかに護衛としては十分すぎる兵力だ。だが、やっぱり出かけたいという気持ちを諦めきれないのか、ネロは頑張って意見具申を続ける。
『知れませんが?』
「ハッ!
リュ、リュキスカ様が
『ああ、なるほど……』
よし! さすがネロの旦那だ!! ……と、心の中で思っているのだろう。他の七名の顔に希望の輝きが宿った。
「
『うん、言いたいことはわかった』
リュウイチがそう言うと他の七人と同様、ネロの表情もわずかに明るくなった。笑みをかみ殺している風である。
『だけど、出発は今日だよ?旅の準備なんて今からで間に合うの?』
「
ネロがそう言うと全員が一斉に胸を張った。彼らが近代的な軍服を着ていたなら、一斉に踵を鳴らしていたかもしれない。
『ふーん、わかった。でも全員は無理だよ?
こっちにも仕事はあるし、リュキスカが出かけることになったらその警護を君らに頼まなきゃいけないんだし?』
これを聞いて奴隷たちのうち何人かの表情が微妙なものになる。特に八人の中で唯一赤ん坊の世話ができるオトは、現状でさえリュキスカの専属みたいになっているだけあって早くも諦めてしまったようだった。
「ハッ、承知しております。
自分たちも全員がルクレティア様の御供に就けるとは思っておりません。
あくまでも、自分たちに行くつもりがあるという意思表明の志願であります」
『じゃあ、行くメンバーはもしかしてもう選抜してるの?』
「それはまだであります!」
『わかった、じゃあルクレティアとかクィントゥスさんたちと相談してみよう』
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