第1187話 不敵
統一歴九十九年五月十日、夜 ‐
「おおっ」
やった!
ムセイオンのハーフエルフ様!!
しかも世界で最も
大金星である。控え目に行っても大手柄と言っていいだろう。世界で最も高貴な聖貴族を“保護”したのだ。帝国の最南端という辺境の地では、どれだけ望んでも得られないチャンスを掴んだ……カエソーが思わず
世界で最も高貴な存在、
つけ入らせないぞ……
ペイトウィンは胸を張り、顔をあげ、たいして背丈に差のないカエソーを見下ろすような姿勢を取った。
「貴様のことは知っているぞ。
サウマンディアの伯爵公子だったな?」
「おお、御記憶でしたか!?」
身分を言い当てられたカエソーの表情は輝かんばかりに明るくなった。だが、ペイトウィンの方の表情と態度は相変わらずである。いや、一度無表情になったその顔には、再び本人も意識していない笑みが浮かび始めていた。
「うむ、アルビオンニウムの神殿前で名乗っていたであろう?
あの時、私もあの場に居たのだ。」
「いかにも、私はカエソー・ウァレリウス・サウマンディウス伯爵公子です。
あの暗がりでよくぞ……ああ、
レーマ軍では全将兵に装備が支給されるが、裕福な者は自弁によってより質が高く、より目立つ格好を調達し身に着ける。
自慢げに自分の鎧を見下ろすカエソーにペイトウィンは鼻を鳴らした。
「あの時は暗視魔法というのを使っていたのだ。」
「暗視魔法?」
「そうだ、使えば暗闇でも昼間のように見通すことが出来る魔法だ。」
お前のチャチな鎧なんかイチイチ憶えているもんか……相手の自慢する物を
「おお、ということは私の顔を憶えていてくださったのですな!?」
却ってカエソーを喜ばせてしまったペイトウィンは内心で舌打ちし、思わずプイッと顔を背け、周囲を見回した。それから今度はルクレティアに顔を向ける。
「
ペイトウィンに逢えたことを喜ぶカエソーとは対照的に、ルクレティアは頭から被っていた
「ファドが言っていた。
お前たちがそうか……」
言われてリウィウスとヨウィアヌス、そしてカルスの三人は緊張を新たにする。三人にとってファドとの対戦は悪夢のようだった。血の流れない実戦と評されるほど厳しいレーマ軍の戦闘訓練で鍛えられたホブゴブリン三人を、それもリュウイチから下賜されたミスリル製の武器で身を固めたリウィウス達三人を同時に相手取り、互角以上の戦いをしてみせた強敵……あの時ルクレティアの魔法支援が無ければ、《
ペイトウィンを警戒するホブゴブリンたちの姿にペイトウィンはフッと笑ってみせた。彼にとって、怖がられることは自らの優位を証明し、安心と安全とを示すものであり、喜ぶべきことだったからだ。
「フッ、安心しろ……お前たちを攻撃する意思は無い。」
しかし、ペイトウィンが続けて口にしたことは、彼らを驚愕させるに十分なものだった。
「私はお前たちの主人に逢いたいのだ。
お前たちと、《
私は、そのために来た。」
ルクレティアが、リウィウスが、ヨウィアヌスとカルスが、そしてカエソーまでもが驚き、目を丸くして息を飲む。
まさか……リュウイチ様の降臨に気づいている!?
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