第1246話 話の中身
統一歴九十九年五月十一日、晩 ‐ ライムント街道第三中継基地宿駅/アルビオンニウム
「単独投降……か……」
アッピウスの当初の反応はその一言だけだった。目の前の盗賊クレーエがエイーに仕えていると言った時から何となく察してはいたが、それはアッピウスの期待していた交渉ではない。アッピウスとしてはあくまでも
無反応に近いアッピウスの態度にクレーエは逆にわずかな焦りを感じ始める。エイーは確かに
「
「ふーん……」
「閣下のお気持ち一つで、
「なるほどねぇ……」
おかしい……聖貴族だぞ、ムセイオンの!
それなのに興味が無ぇってのか!?
クレーエの質問にどこか
「閣下?」
さすがに
「あぁっ!?
ああ、聞いとるとも。
だが、色々と納得できんところもあってな……」
「何がでしょう?
アタシに説明出来ることでしたらいくらでも……」
「ふーむ……まずは
貴様、
「目的?」
「ムセイオンの
クレーエは意表を突かれたように目を見開き、両眉をあげた。そしてすぐにランツクネヒト族らしい膨らんだ唇の口をへの字に曲げ、小さくフルフルと一瞬首をふる。
「聞いた話ですがたしか、降臨を起こし
それはクレーエはチラッと聞いたことがある程度の情報だった。
『勇者団』が盗賊たちを戦力として集めていた最初の頃、傘下に入れられた盗賊たちが『勇者団』の目的についてそのように聞かされたことがあったらしい。ただ、その話を聞かされた盗賊たちもそんな
しかしアッピウスは別の情報源からそれが事実であることを知っていた。
「その通りだ」
アッピウスの言葉にクレーエは改めて驚き、への字に結んだ口の口角を左右に引き下げる。
「だが
クレーエは表情を変えずに小さく頷いた。まあ、成功したらもっと大騒ぎになっていただろうしクレーエたちの状況も今とは大きく違っていただろう。
「それなのに、目的も達しないのに
スーッ……視線を床に落としたクレーエは音が聞こえるほどの勢いで大きく鼻から息を吸い込んだ。そして吸い込んだ時の半分くらいの時間で吐き出すと視線をアッピウスに戻し、表情も平坦なものに戻した。アッピウスが何を質問して来るかと心の中で身構えていたが、元々言うつもりだった虚偽の説明の内容をそのまま答えればいいだけの質問だったことに安堵すると同時に、嘘を信じ込ませるために真面目にならねばならなかったからだ。
「
「ショック?」
「はい、閣下はブルグトアドルフで、
アッピウスはわずかに
さりげなく責任を回避しようとする言説にアッピウスは敏感に反応したのだ。が、それを指摘してクレーエを責め立て、交渉を台無しにしてしまうほどアッピウスは愚かではない。すぐに姿勢を戻して続ける。
「もちろん報告は受けておる。
随分なことをしたな?
クレーエを責め立てはしないがチクリとしてやるくらいは当然だろう。さすがにこの場の交渉のために全てを見逃してやる気には、さすがのアッピウスもなれなかった。他人の領土とはいえ同じ
対するクレーエも自分への追及に鈍感ではなかった。仰け反るように上体を伸びあがらせて両手を翳す。
「誓って言いやすが、アタシぁブルグトアドルフじゃ人を
ついでに言うが盗賊どもは
ありきたりな言い訳をアッピウスは相手にするつもりは無かった。閉口し、顔を背けて左手で頬杖を突くと、右手をヒラヒラ振ってクレーエを黙らせる。
「はぁ……そういうのは後で聞いてやる。
いいから話を戻せ」
自分から話をそっちへ持って行ったくせに……クレーエは不満を押し殺し、要望通り話を戻した。
「ともかく、
それが
「それで、
「いやいや……」
話を先回りするアッピウスをクレーエは牽制した。話をそこまで単純化されるとクレーエとしては困るのだ。何故ならエイーは本当はレーマ軍に投降する気はなく、むしろレーマ軍と戦いたがってすらいる。そのエイーを、レーマ軍を食い止めるための謀略と見せかけてレーマ軍に投降させねばならぬのだから、それなりの手順を踏む必要があった。
「
話が見えなくなったアッピウスは頬杖を突いていた拳から顔をあげた。
「なんだと?
それはどういうことだ!?」
「
ただ、
ちょいと
「はぁ~~~~っ」
アッピウスは大きな溜息をつきながら再び頬杖を突いた。ジトっとした視線がクレーエに注がれる。あからさまな不信の目だ。
「アタシらとしちゃ
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