第655話 第二次ブルグトアドルフ事件の報告
統一歴九十九年五月八日、午前 -
これほどまでの連日の会議はレーマ帝国において、いや
ところがここアルトリウシアでは二~三日に一度は領主を交えた大掛かりな会議が開かれている。家臣との個別の面談も含めれば毎日何がしかの会談をしていると言っていい。その様子は内情を知らない
何故、
で、あるからこそ、この異常な情報統制と極端なまでに繰り返される会議や会談は、人々の様々な憶測を呼んでいた。
それはいつしかアルトリウシアの
領主様がたは叛乱軍を討つための準備をしていなさる。奴らに知られぬよう、ギリギリまで隠すおつもりなのだ。領主様がたは自分たちの仇を討ってくださるんだから、自分たちも……と、勝手に期待を膨らませた領民たちは勝手に納得して勝手に協力していた。つまり、知らぬふり気づかぬふりをしていたのである。まさに「公然の秘密」そのものだった。
もちろん、内情は彼らの期待に反し、それどころではないというのが実態である。
「では、シュバルツゼーブルグの盗賊団はブルグトアドルフで壊滅したのですか?」
アルトリウスの持ってきた報告に一同がざわめきを禁じ得ぬなか、やはり居並ぶ家臣らと同様に落ち着かぬ様子でエルネスティーネが尋ねる。だが、その声、その表情は決して明るいものではない。
「まだ油断はなりません。
しかし、おそらく二十~三十人程度にまでは討ち減らしているものと推測しております。これは希望的数値ではありますが……」
アルトリウスが本件の説明役として伴っていた
百人規模と想定される盗賊団がブルグトアドルフで待ち伏せ攻撃を仕掛けてきたが、待ち伏せされた
「二十~三十人程度なら、少し大きい盗賊団くらいか‥‥‥
その程度ならもうフォン・シュバルツゼーブルグ卿の兵でも対処できるのではありませんか?」
アルビオンニア属州の内政の実務を実質的に束ねている筆頭家令ルーペルト・アンブロスがどこか半分安堵したような、それでいて何かを期待するような様子で質問する。今、アルトリウシア復興事業のためにアルビオンニア属州の総力を挙げて取り組んでいるというのに、今回の盗賊団対応のためにアロイスが一個
だが、その期待に反してゴティクスは首を横に振る。
「いえ、確かに盗賊団は二十~三十程度にまで減っておりますし、それだけを見れば
しかし、その盗賊団を率いているのが例のハーフエルフであることを考えると、全く油断できません。」
「で、ですが、そのハーフエルフを一人、捕虜にしたのでしょう?
だったら……」
「いえ、捕えたのはハーフエルフではなくヒトです。
あくまでも冷徹なゴティクスの回答にルーベルトは呻くように溜息を噛み殺し、伸びあがっていた上体から力を抜いて残念そうに顔を
「また、捕えたと言っても捕えたのが《
つまり、《
不満げなルーベルトに追い打ちをかけるようにゴティクスが言うと、まるでルーベルトの不満が伝染したかのように会議室中から一斉に呻き声が漏れた。
「ルクレティア様がブルグトアドルフを離れ、こちらにお戻りになれば、
エルネスティーネは自分の状況認識が正しいか確認するために、隣に座るアルトリウスに訊ねると、アルトリウスは貴公子らしい優雅さを保った様子で頷いた。
「対処できなくなるというのは
アルトリウスの説明にエルネスティーネは悩まし気に一同を見回す。家臣たちはいずれもエルネスティーネと同じように憂慮の念を顔に浮かべていた。
「どうすべきかしら?
少なくとももうこれ以上、こちらから割ける戦力は無い……私はそう伺ったように記憶してます。
ですが、我が領民に、ブルグトアドルフの住民にこれほどの被害を生じさせながら彼らを野放しにするなど、許されることではありませんわ。」
ブルグトアドルフは小さい街だが住民の四割もの犠牲者を出し、その上全住民が街を捨てて避難する羽目に陥っている。相手がいくら
だが、アルトリウシアには一個軍団に相当する兵力が集結してはいるものの、ブルグトアドルフに行っているアロイス・キュッテルに更なる増援を届けてやることはできない。現在遂行中の復旧復興事業を中断させるわけにもいかないからだ。増援を送らなければブルグトアドルフやシュバルツゼーブルグで更なる犠牲者が出てくるかもしれない。だが、
「アルトリウシアの復旧復興に影響を及ぼすことなく増援を送るとなれば、ズィルパーミナブルクから戦力を抽出する他ないでしょう。
その判断は
アルトリウスがエルネスティーネを慰めるように言うと、その後をとるようにゴティクスが説明を付け加えた。
「問題は
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