第388話 ポーション希釈
統一歴九十九年五月五日、黎明 - ブルグトアドルフ/アルビオンニウム
「くらーてーる!?
えーっと
こんな時にそんな物、何にすんです?」
教会の厨房に入ったヨウィアヌスは、そこで包帯づくりのためにボロ布を
「いや、ポーションを薄めようと思って」
「ポーションを薄めるだって!?
アンタら十分な量のポーション持ってきてくれたって話じゃなかったのかい?」
「いやあ、運んでる最中に濃くなっちまったみてぇでさ。」
「何だい、ポーションを樽かテラコッタにでも入れて来たのかい?
そんなのもう駄目になっちまってんじゃないか!?」
ガラスや磁器が普及しておらず、陶器と言えば
だが、ポーションは寿命が短く、水分が抜けて濃くなり始めるころには劣化して使い物にならなくなっているのが普通である。元々長期の保存ができないからこそ、ポーションは金属の瓶に入れて運搬・保存されるものだから、ヨウィアヌスの適当なウソに
「特別なヤツなんだ。
ムセイオンの学士様から教わって試しで作られたっていう貴重な品でね。」
「へぇ~…まあ、
そっちの棚の真ん中の段だよ。
薄めるため水はこっちの水瓶だ。
この水瓶の水は一度沸かしてあるからそのまま使えるだろう。」
胡散臭そうに思いながらも、ヨウィアヌスがヤケに立派な
「ありがとよ。
終わったらどこで洗えばいい?」
背後からの質問に
「いや、今井戸の周りは怪我人を洗う水を汲むだけでいっぱいいっぱいのはずさ。
洗えねぇだろうから、そのまま置いといてくれ。」
ヨウィアヌスは「わかった」と言うと早速教えられた棚から
「よしカルス、コレもってけ」
「分かった。」
ヨウィアヌスはそう言えば薄めたポーションを飲ませるための器が無かったと気付き、食器棚を見あげた。そこに輝く銀の酒杯に目をとめながら
「
「ああ、好きなの持って行きなよ。」
「借りれたか?」
「水も貰えました。」
セルウィウスの問いに水の入った
「何だってそんなデカブツを?」
「さあ?
ヨウィアヌスが選んだんだ。よいしょっと」
カルスが持ってきた
「そういえばヨウィアヌスは?」
カルスがテーブルに
「えっへっ、こりゃ
「カルス一人に運ばせて何してたんだ?」
「いやなに、薄めたポーション飲ますのに
眉を
だが、どうもヨウィアヌスの態度は胡散臭くてどこか信用ならない。セルウィウスは不機嫌そうに鼻を鳴らすと命じた。
「もういい、さっさと始めろ。」
「へぃっ、今すぐ」
早速ヨウィアヌスはポーチからガラスの小瓶を取り出すと、リュウイチから教わった通り瓶の蓋を捻った。プチっと音がして蓋を抑えていた金の線が切れ、その後は特に何の音も手応えも無く蓋が抜ける。
「み、水が多すぎないか?」
世にも貴重なポーションが小汚い
「薄め過ぎたらもう一本足しゃあいいでしょう?
どのみち、全員に行き渡らせようと思ったらこんくれぇは要るんだ。」
最後の一滴まで注ぎ込もうと、空になった小瓶を振りながらヨウィアヌスは答えた。そして、
「はいっ、じゃあこれで試してみやしょう!」
ヨウィアヌスが薄めたポーションの入った
彼らはひとまずポーションの効き目を確かめることにしていた。リュウイチのポーションなんだから間違いなく効くのは分かっている。毒と骨折で瀕死の重傷を負っていたカールを、たったの一口で治してしまったという噂は彼らも聞いていたのだ。だから効くことは疑っていない。問題は効き過ぎることだ。
もし、薄めてもとんでもない効果で、瀕死の重傷者を一瞬で全快にしてしまうようなら、すぐにコレが
セルウィウスは
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