聖堂前の茶会
第762話 聖堂前の茶会
統一歴九十九年五月九日、午後 ‐
魔力よりも見栄えを重視されて選ばれる聖堂付きの
「相変わらず綺麗なお庭ですね。」
チョロチョロと心地よく流れる噴水の水音、そして時折優しく吹き抜ける風音に懐かしむような女性の声が加わる。
「
「随分前のことよ。
ここが
それから‥‥‥たしか二回くらい来たかしらね?
最後に来た時はまだ先帝がお若くていらしたから、もしかしたら陛下はまだお生まれでなかったかもしれませんね。」
目の前で笑う少女とも淑女ともつかぬうら若き女性は、見た目に反してクレメンティウス朝が
聖堂を囲む庭の一角……トラバーチンを丸く敷き詰めたちょっとした休憩用のスペースが、レーマ皇帝マメルクス・インペラートル・カエサル・アウグストゥス・クレメンティウス・ミノールと大聖母フローリア・ロリコンベイト・ミルフの会談の場になっていた。突如、転移魔法を使って
フローリアの
いったいどこでそんな練習をしていたんだ?
経験豊富な中高年の神官を揃えていたことが思わぬ功を奏し、マメルクスがそのような疑問を抱いてしまうほど、その準備は手際よく短時間で完成した。準備の終わりを告げられるや否やフローリアはマメルクスに案内を催促し、そしてその通りに皇帝自らフローリアとその従者を案内し、一同は席について今に至る。
今年初めて収穫された茶葉の香りは若々しく、味わいもスッキリとしていた。その香りを胸いっぱい吸い込んで堪能し、一口すすったフローリアはホォォ~~とすっかり惚れ込んでしまったかのように息を吐いて全身を脱力させた。
「この香茶もおいしいけど、この
レーマで御造りになられたものかしら?」
「お気に召されたのなら幸いです。
それはスペル・ルイギ卿の新作です。」
「スペル・ルイギ!?」
フローリアとその両隣に居た二人が驚き、目を丸くした。スペル・ルイギとは降臨者スーパー・ルイージの一人息子……
「彼は、製鉄の
それでその成果物をこうして献上してくれたのですよ。」
説明を聞きながらフローリアは改めてその器を目の高さまで持ち上げ、光に透かしながらマジマジと観察しながら目を細めた。
その製造技術の未熟さを反映して、フローリアが手にしているガラスの器も不純物と気泡がいっぱい混じりこんでおり、白く濁って向こう側などほとんど見えない。
その代わり、今フローリアがしているように光に
「素晴らしいわ、いつかあの子にも会いたいものね。」
「
「是非伝えてください陛下!
……ああ、でもそれはまだしばらく待ってからにしていただかなくてなはなりませんわね。」
何かを思い出し、不本意ながら現実に引き戻されてしまったかのようにフローリアは残念そうに言い、掲げるように捧げ持っていたガラス茶碗を下ろした。
「私がここへ来たことは、内密にしていただかなければなりませんから……」
彼女の口調から先ほどまでの無邪気な様子は消え失せ、表情も口調もマメルクスが以前からよく知っているフローリアの取り澄ましたものへ戻っている。それは彼らのこの場での話を、本題へ戻すべき時間になったということを告げていた。
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