第1218話 誰が誰を騙したのか?
統一歴九十九年五月十一日、午前 ‐
「……なんてことだ……」
話を聞いたデファーグは沈痛な面持ちで額に手を当てた。
アジトにしていた倉庫でヘーレン商会の商人を名乗るNPCに見つかったこと。クプファーハーフェンで見つけた支持者は実は詐欺師で
「どういうことなんだ、俺たちが受けた支援は全部嘘だったっていうのか?
何百人分もの食料だって受け取っていたじゃないか?!」
その疑問も
「分からない。
だが、食料の供給が突然止まってしまったのも、支援者と連絡が取れなくなったのも事実だ。
アジトの倉庫だってたまたま使われて無かっただけで、借りれてたわけじゃなかった。
ましてや、アイツが名乗っていた名前が“詐欺師”って意味だったなんて……」
クプファーハーフェンで出会い、『勇者団』への支援を約束してくれた男が名乗ったていた名前“ベトリューガー”はドイツ語で“詐欺師”を意味する言葉だった。仮に偽名だったとしても、マトモな神経と常識を持ち合わせた者ならこれから真面目に契約を交わす相手にそのような名前は名乗らないだろう。
ファドが……あの時、ファドが一緒だったら騙されなかっただろうか?
ムセイオンを脱走して以来、『勇者団』を支えていたのはファドだった。世間知らずな『勇者団』の中で唯一の常識人であり、世間慣れしてい彼がいなかったら、『勇者団』の旅はとっくに崩壊していただろう。
貧民街に生まれた聖貴族の落とし
そんなティフが『勇者団』のリーダーとしての自信を取り戻すためには何よりも実績が必要だった。クプファーハーフェンで出会った支援者との契約……それは『勇者団』のアルビオンニウムでの活動の基盤となり、同時にティフにとっての大きな実績になるはずのものだった。
実際、その契約によって『勇者団』の今後の活動に不安が無くなってからというもの、ティフは何とも言えない充足感に満たされていた。自信を取り戻せたのだ。が、今思えば、自信を取り戻したいがために焦り、早まったかもしれない。あのティルとか名乗る怪しい男に引き合わせて貰ったベトリューガーとの話を、ティフは持ち帰って他のメンバーと話し合うことなく、その場にいたメンバーだけで受け入れることを決めてしまった。早まったのだ。
「待てよティフ!」
仲間たちに囲まれながらも一人苦悩し始めるティフの肩をデファーグが掴む。
「アンタ、それこそ騙されてるんじゃないのか?」
ティフの顔を覗き込むようにして問いかけるデファーグを、ティフは何か不思議なものでも見る様な表情で見返した。
「?……ああ、だから騙されたって……」
「そうじゃない!」
デファーグはティフの両肩を掴み、正面から向かい合わせた。
「アンタが騙されたって話の方こそ嘘なんじゃないのか?」
スワッグとソファーキングは唖然とした様子で互いを見合った。ティフはデファーグが何を言っているのか分からず、キョトンとした表情で言葉も無く見つめ返している。
「そのシュバルツゼーブルグで見たって言う商人……そっちの言ってることの方が嘘なんじゃないのか?
実際、アンタから金をだまし取って
ソイツは間違いなく嘘つきだ!
アンタ、そんな奴のいうことが信用できるのか?」
「「「あ……」」」
目からウロコが落ちる……まさにそんな感じだった。
「しっかりしてくれ。」
デファーグが溜息をつくようにそう言いながらティフの両肩から手を離すと、ティフは力なくよろめきながら「すまん……」と言った。
「で、でも、あのNPCが嘘をついたんなら、支援者は何で“
スワッグが
「それ自体も嘘かもしれんだろ?
それともスワッグ、お前はドイツ語を知ってるのか!?」
「んぐっ……」
デファーグの冷静なツッコミにスワッグは思わず息を飲む。確かにスワッグはドイツ語は分からない。「ベトリューガー」が「詐欺師」を意味する言葉だというのは、あの
そこから騙されてたってのか!?
最早、何を信じていいのか分からない状態だった。だが、これから起こりそうな事については疑いようがない。ソファーキングはそのことを指摘する。
「し、しかし、これからレーマ軍がここに来るってのは間違いありません!
あの
アジトの倉庫も、あの後すぐに踏み込まれました。
ここだってきっと、すぐにレーマ軍が駆け付けます!!」
ソファーキングの切実な訴えに、茫然となっていたティフとスワッグも我に返った。たしかに街道を行きかう馬車の御者たちはこちらの方を怪訝そうに見ている。どうやら人目を惹きすぎてしまっていたのは否定できないらしい。仮に嘘つき商人の通報が無かったとしても、レーマ軍が駆けつけてくるのは時間の問題だ。
「そうだ、どのみちここからは離れないと!」
スワッグのその一言にティフは頷いた。
「そうだ、ここには長居は無用だ!
すぐに移動しよう!
すべてはそれからだ。」
シュバルツゼーブルグの街からレーマ軍の部隊が駆け付けたのは、ティフ達がその場を去ってから間もなくのことだった。
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