幕間の陣営本部
第1373話 出かける前の……
統一歴九十九年五月十二日・午前 ‐
一日分の汚れ物が運び込まれた
結局、
話の後、リュウイチはリュキスカに
「ちょっとだけ! ちょっとだけでいいからさぁ。
何なら一度返すし、
意外かもしれないがリュキスカが
リュウイチとしてもルキウスに筋を通す必要は認めていたが、一度は「問題ないはずだ」と断言してしまっていたし、リュキスカに初めて甘えられたということもあり、ひとまず
リュキスカは使い方を教わるや否や、早速自分に向かって浄化魔法をかけた。その直後、その目で効果も確かめないうちからパアッと表情を明るくする。リュキスカの満面の笑みの理由はリュウイチとロムルスには分からなかった。リュキスカも言うつもりはない。先ほどリュウイチと話しをするために
やった!?
すごい!
下り物が消えた!?
ひょっとして毎日これかけてりゃこれから一生下り物で困らなくなるんじゃ!?
それは閉経まで続く女性の悩みの解消、すべての女性の羨望の対象たり得る成功をリュキスカが手にした瞬間だった。だが世の中全てがそう便利になるわけではないようだ。
最初、リュキスカの笑みの理由が分からず困惑していたリュウイチとロムルスだったが、二人の表情はある瞬間を境に次第に別の困惑へと色を変えていく。そして二人は互いの目を見合ってから、リュウイチが言いづらそうに言った。
「リュキスカ……その、司令部に行く前に化粧直しをしとこうか?」
浄化魔法はリュキスカの化粧も落としてしまっていたのだった。
そんなわけでリュキスカは二階の
金属鏡しか知らなかった女がガラス鏡を目の当たりにした時の感動を想像できるだろうか?
それ以降、リュキスカの化粧にかける時間と化粧の完成度は各段にアップしている。リュウイチも鏡を渡した翌日からリュキスカの顔が別人のように変わったのには随分と驚かされた。が、それから遠い記憶の彼方から思い出と共に世の男性諸君が共有する不可解極まる事実を再認識させられるはめになった。女というのは化粧にやたらと時間をかけるという事実をだ。
今、リュウイチはリュキスカに鏡をあげてしまったことに対する小さな後悔と、アルビオンニウムから帰ってきたルクレティアにも同じ鏡をあげなければならない事、そしてその時に起こるであろう騒ぎとを考えながら、ロムルスと共にリュキスカを待ち続けている。
まだかなぁ、司祭が来るまでに行かなきゃいけないのに……
この世界にはスマホはもちろんネットも無い。ラジオもテレビも無い。本を読もうにもあるのはラテン語かドイツ語か英語の本だけでリュウイチには読めない。したがって待つというのは本当にただひたすら何もしないということだ。リュウイチが何度目になるか分からない溜息を噛み殺した時、ロムルスふと顔を上げて呼びかけて来た。
「お!
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