第1374話 陣営本部に来たヘルマンニ
統一歴九十九年五月十二日・午前 ‐
一緒に退屈を分かち合っていたロムルスの声にリュウイチが顔を上げると、西の
「
ヘルマンニの声は大きい。船で部下を指揮しているうちに自然と声が大きくなったというのもあるが、歳のせいか自身の耳が遠くなっており、相手にも少し大きい声を出してもらわねば聞こえなくなってきたからというのもある。だが念話で話すリュウイチに声量は関係なく、そのままの声で話してヘルマンニとの会話に困ったことは無い。
『おはようございますヘルマンニさん。
こっちへ来るなんて珍しいですね』
ヘルマンニはセーヘイムを治める
「恐れ入ります。
ちっと
リュウイチはヘルマンニのことは嫌いではない。むしろこの世界であった貴族の中で彼がリュウイチに見せる
『ああ、それはすみません。
ひょっとして、エッケ島で何か?』
ヘルマンニは小規模だがアルビオンニア属州の海軍の総司令官だ。その彼が急ぎで
だがリュウイチに予想をヘルマンニは笑って否定する。
「いやいや、そんな大層なこたぁありゃしません。
それに今日、エッケ島には
ヘルマンニは本当に気にしてないという風にニコニコと笑い、七つの三つ編みに結んだ顎髭をさすりながら束の間の立ち話に興じた。こういう人当たりの良さがリュウイチの気に入ってる点であるが、ヘルマンニがこうした人の好さを見せる相手は限られているため、もしもリュウイチがヘルマンニは人当たりが良いと言っても多くの人は賛同しないだろう。
『そうですか。
でもお急ぎなら引き留めない方が良かったですね?』
「いや、お気になさらず。
報告会の前に話を通しておきたいことがあっただけでしてな。
リュウイチ様こそ、てっきりもう
『ああ、いやリュキスカが化粧を……』
リュウイチが困ったように笑うとヘルマンニはカカと笑った。
「
じゃがリュキスカ様ほど御若けりゃ飾り甲斐もありましょう。
ウチのなんぞもう婆さんだっちゅうに未だに……おお、来られたようですな」
ヘルマンニの言葉に振り向くとリュキスカが階段を降りてきたところだった。両腕で赤ん坊を抱え、背後にオトを連れている。リュキスカ本人はというとメイクもバッチリ決めたうえ、衣装も着替えている。
リュキスカは階段の上でリュウイチと共にいるのがヘルマンニだと気づいて脚を止め、驚いたようにわずかに目を見開いてから緊張した様子で降りて来た。そしてリュウイチやヘルマンニたちのいるところまで来るとリュウイチと普段接している時とは思えないほど
「ヘルマンニ様」
え、リュキスカってこんなキャラだったっけ?
リュウイチが思わず目を見張り、ロムルスは何故かニコニコと笑みを浮かべながら興味深そうにリュキスカやリュウイチ、ヘルマンニを盛んに見比べている。
「いやぁこれはリュキスカ様、大層な御召し物で」
ヘルマンニが
リュキスカはそもそも
ヘルマンニはリュキスカの態度に何か壁のようなものを感じたというわけでもなかったが、リュキスカが来たことでリュウイチがこの場に留まる理由が無くなったと判断したのだろう。「では
ヘルマンニを見送ったリュキスカはホッと息をついた。
「ヘルマンニ様ぁ何でこっちに来られたんだい?」
リュウイチが「行こうか」と今まさに言おうとしたタイミングでリュキスカが尋ね、リュウイチは喉まで出かかっていた言葉を飲んだ。
『いや……なんかエルネスティーネさんに報告することがあるって』
「てことはエッケ島のハン族が何かやらかしたのかい?」
『いや……そうじゃないって言ってたよ』
気づけばリュキスカから緊張した様子が消えていた。リュキスカは元々レーマ人らしく目鼻立ちのクッキリした顔立ちだが、南蛮人の血が入っているらしく肌の色がレーマ人より明るい。化粧を決めると整った顔立ちがより際立って思わず見とれそうになってしまう。リュキスカはリュウイチが自分をジッと見下ろしているのに気づき、少し動揺した。
「あ、そう言えばゴメン、待った?」
『いや、ヘルマンニさんと立ち話してたし……じゃあ行こっか?』
リュウイチは適当に返事を返すと、何故か間が持たなさそうな気まずさを感じ、すぐに移動を促した。
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