シュバルツゼーブルグの夜
第360話 峠道
統一歴九十九年五月三日、午後 - グナエウス街道/シュバルツゼーブルグ
本来、グナエウス街道を通ってアルトリウシアからアルビオンニウムへ行く場合、途中で二泊するするのが通例である。泊まるのはグナエウス峠の頂上にある
グナエウス峠は街道が整備されているので荷物を満載した馬車でも越えることはできるが、峠を越えるためにはどうしたところで二日がかりにはなってしまうだけの距離があり、途中で宿泊することは避けられない。本来
規模から言って
一応、普段は早馬等の中継基地、そして街道上の治安維持のための拠点として使われているため、常駐の部隊は小規模ながら存在しているが、冬は雪で閉ざされるため無人となってしまう。そして今は、
シュバルツゼーブルグの方はかつては対
ライムント街道とグナエウス街道が交わる交通の要所であり、アルビオンニウム放棄の影響で現在は景気が落ち込んでいるが、かつてはライムント街道沿いにある宿場町としては一二を争うほどの繁栄を見せていた。現在の人口は五万人ほどだが、そのうち二万人以上がアルビオンニウムからの避難民であり、治安や衛生はもちろん、経済面でも大きな問題となっている。
かつては最前線だったというだけあって
本来ならばルクレティアらの一行はそれらの宿泊施設を利用することになるはずだが、一つは
その結果、それらの宿場町以外にある
レーマ帝国には《レアル》古代ローマ譲りの
本来は大規模部隊を収容することを想定していないので、大規模な施設であっても緊急の際に一個
グナエウス街道の
結果、護衛は三個
昨夜はグナエウス峠の西側中腹にある
「もう暗くなってきたわね。
まだ着かないのかしら?」
ヴァナディーズが膝の上に乗った緑色の半透明の小人のような光の塊と夢中で話すルクレティアから目を逸らし、何を見るでもなく馬車の窓から外を眺めて嘆息する。彼女は退屈を持て余していた。馬車に揺られながらでは本も読めないし、書き物もできない。そして唯一の同乗者であるルクレティアは《
最初の内はヴァナディーズも一緒に話していたが、
ルクレティアの事は自身の召喚主であるリュウイチにとって大切な人物だと認識しているらしく、ルクレティアには何か訊かれれば答える程度には応対してくれるのだが、ヴァナディーズのことはどうでもいいらしくルクレティアを通さないと質問にも答えてくれないし、答える際もルクレティアにだけ念話を送るので、ヴァナディーズはルクレティアを中継しないと話が出来ないのだった。結果、馬車の中でヴァナディーズだけが取り残されたまま、車窓を愉しむしかなくなっていたのである。
「ああ、先生、えっと…ここらは山の東側だから暗くなるのが早いんですよ。
ほら、シュバルツゼーブルグの向こう側の
初めて《
「これだけ天気が良いのに、やっぱり寒いのね」
ヴァナディーズは
「ライムント地方はアルトリウシアよりも寒暖の差は激しいので、今夜はたぶん昨夜よりも寒いと思います。
暖房は昨日より用意してくれると思いますけど…」
グナエウス峠を越えた
しかし、アルトリウシアに比べると格段に寒いのは間違いない。アルトリウシアが
もっとも、ヴァナディーズはアルビオンニウムに行くのは初めてではないのでそのことは知っているはずである。要は
「あら、何かしら?
休憩時間には早いと思うけど…」
隊列は徒歩の
「訊いてみましょうか…ねぇ、外で何かあったの?」
ヴァナディーズは気が立っているのかいつもより積極的である。車内からヴァナディーズが問いかけると、
「さあ、分かりやせん。
どうも前から伝令が来たようで、何かあったようでやすが何があったかまでは」
ヴァナディーズは馬車の窓から顔を出して前方の様子を伺い、ルクレティアもはしたないと思いつつも付き合って窓から顔を出して前方を見た。
どうやらリウィウスが言ったように前から伝令が来たらしく、ルクレティアたちの前を進んでいたはずのセプティミウスの馬車に護衛隊長のセルウィウスが馬に乗ったまま横付けして何やら話をしている。
そのうち、セルウィウスは馬から降り、同時に馬車からセプティミウスも降りて二人でこちらへ歩いてきた。
「あ、こっちに来やす!…おい!」
リウィウスはヴァナディーズたちに短く報告すると、振り返って
「失礼します、ルクレティア様」
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