第403話 降臨現場の検証
統一歴九十九年五月五日、夕 -
「地脈がもうないってどういう事!?」
『
地の底を流れる大地のエネルギー…地脈。それは山林の実りや農作物の豊穣を司ることもあれば、時に地震や火山噴火なども
サウマンディアから
「僕も用意できる限りの水晶球を取り寄せて地脈を探ってみた。
だが、もう地脈を感じることが出来なくなっているんだ。」
「・・・・・・」
信じられない…まさにそんな顔でルクレティアはスカエウァの顔を見上げる。もちろん、ルクレティアはそのことをサウマンディアからの報告で聞いていた。だが、それでも信じられないでいたのだ。地脈が無くなるなどあり得ない。きっと、微弱すぎて感知できないだけで、魔力の高い神官が十分に大きな水晶球を使えば、きっと地脈を捕えることが出来るはずだ…しかし、そうした期待はスカエウァによって裏切られてしまった。ルクレティアの知る限りスカエウァはルクレティアよりも優れた神官であり、彼が地脈を感知できないのであれば、ルクレティアに感知できるとは思えない。
「今、君から感じる《
まあ、自分で見てみるといいよ。」
スカエウァはそう言って扉を押して開いた。
「
室内は綺麗に清掃されていてルクレティアが期待した通りの
ルクレティアはあるはずの大水晶球が失われてしまった『
「僕らが来た時には、おそらく大水晶球が砕けたものであろう砂が一面に広がっていた。それは一応すべて拾い集めてまとめてある。」
スカエウァがそう言いながら壁際にいた神官に目配せすると、その神官は一礼してから壁際に置かれていた大きな複数のテラコッタの壺を数人で抱えてルクレティアの前まで運んできた。壺を置いた神官は蓋を開けると、一礼して壁際へ戻っていく。
ルクレティアが見るとその中にはキラキラ輝く純白の砂がいっぱいに入っていた。
「これが…あの
大の大人が二人がかりで左右から抱えるように手を回しても、手が届くかどうかという巨大な水晶の球体は、一抱えほどもある大きなテラコッタの壺七つを満たす白い砂と化していた。同じ物だとは
「信じられないだろうが、間違いないだろう。
最初は何の砂かわからなかったんだが、近くでよく見ると一粒一粒がどれも透明なんだ。そしてかき集めてみたら、重さもだいたい同じくらいだった。
あの、鎖にも少し、この砂粒が付いてたんだよ。」
スカエウァはそう言って、かつて壁から伸びて寝台の真上に巨大な水晶球を吊り下げていた鎖を指さした。今はむなしく鎖だけが残っている。
ルクレティアはハッとなって後ろを振り返った。
「アナタたち!
リウィウスさん…あと、ヨウィアヌスさんとカルスさん!?」
「へ、へいっ!」
突然ルクレティアに名を呼ばれ、リウィウスは慌てて返事をすると、他の二人と目配せして前に進み出て、入口の扉のところで立ち止まった。
「かまいません、入って来て話を聞かせなさい。」
リウィウス達自身はもちろん、他の神官や軍人たちが戸惑いを見せるなか、ルクレティアはキッパリと命じる。
「か、彼らは?」
「彼らは降臨が起きた時、この
そして一番最初にリュウイチ様とお会いし、今はリュウイチ様の
アナタたち!降臨が起きた時、ここに来ましたね!?」
スカエウァの質問に対し、ルクレティアはこの場にいる全員に聞こえるようにあえて大きい声で答え、続けざまにリウィウス達に質問を投げかける。それを聞いて神官たちが「おおっ…」と小さく呻き、リウィウス達に視線が集まった。
「ド、
リウィウスがしどろもどろに言葉を発し、そしてリウィウスとヨウィアヌスの視線がカルスへ向けられる。カルスはどうしていいかわからず、茫然としていた。
「アッシらぁこっちの方には来てなかったんで、
リウィウスがそう説明すると、カルスは何か自分が売られたような気になって思わずリウィウスの方を向いた。その視線は救いを求めているかのようだ。
「カルスさん?」
「は、はいっ
ルクレティアに呼ばれカルスは弾かれたようにピンと背を伸ばしてルクレティアの方を見る。
「そういえば、アナタとオトさんが一番最初にリュウイチ様の御姿を見つけられたのでしたね?」
「は、はいっ
オ、オレは、ネ、ネ、ネロの旦那に、そうだ、雷!
雷が落ちて!…ああいや、違う!雷の音がして!
それで、雷で建物が壊れてないか点検しろって、ネロの旦那に言われて…
それでこっちの方に来たら、この部屋から人の気配がしたから…覗いたら…
カルスは当時を思い出しながら、話を間違えたり、言葉に詰まったりするたびに自分の頬を自分の手でピシャっと叩きながら必死に説明した。
「リュウイチ様はここに降臨されたのね!?」
「た、た、た、多分…はいっ!
おお~~と、居合わせた者たちの感嘆の声が低くこぼれた。ここが歴史的な出来事が起こった、まさに現場であったことが明らかになった…その事実を当事者本人から告げられ、不思議な感動を覚えたのだ。
「その時、どんな様子だったの?」
「はい、
カルスは部屋の真ん中にある石の寝台を指した。
「それで、
オトが、そいつが《
「その時、部屋の中はどうだったの?
「はい
天井からは今みたいに鎖だけがぶら下がってて…そんで、部屋中砂だらけでした。
次第に慣れてきたようでカルスの上ずっていた声は少しずついつものトーンに戻ってきている。
ルクレティアは壺の中の砂を手に取り、カルスに見えるように手のひらから壺の中へサラサラとこぼしながら質問を続ける。
「その時の砂は、これですね?」
「た、多分そうじゃねぇかと…」
「その時、ここに
ルクレティアの質問にカルスは困ったように首を傾げる。
「ま、まじっくさーくるって…な、何ですか
「えっと…何か不思議な模様とかが、どこかに描かれてませんでしたか?
今、ここには無いけど、その時は描かれていた印とか?」
「いや、分かんねぇです。
床は砂で真っ白だったし…
オ、オレらぁそのすぐ後で《
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