第659話 反発
統一歴九十九年五月八日、午前 -
「馬鹿な!ルクレティア様を利用するのか!?」
「
「不遜だ!いや、不敬だ!!」
「ルクレティア様を利用するということはリュウイチ様を利用するのと同じだ!」
「然り!
ルクレティア・スパルタカシア・リュウイチアにブルグトアドルフに留まるよう早馬を送れ……アグリッパ・アルビニウス・キンナの提言に対する反応は徹底的な否定そのものだった。そうした反応はアグリッパ自身もある程度は予想していたようだが、多少なりとも考える間もなく脊髄反射ではないかと思えるほどの反応にはさすがに予想以上だったようだ。アグリッパはまるで
そのアグリッパの態度はまるで
もう少し言い方があっただろうに……
アグリッパという人間は
例えば他の
当然、そうした過程でどれだけ立派な
ただでさえ
そんなアグリッパにとって立っている者は親でも使うのは当然であり、“身内”しかいない場所でなおも本音を隠し、体面を気にし続ける目の前の
ムセイオンのハーフエルフたちは捕虜奪還に
だがルクレティアには《
ならばこのままハーフエルフたちにルクレティアを襲わせれば、こちらから軍を送り込まなくてもハーフエルフたちは勝手に自滅するではないか。別にルクレティアに「ハーフエルフを捕まえてください」「倒してください」と頼む必要はない。そんなことをしなくてもハーフエルフの方が勝手に攻撃を仕掛けてくるのだ。
ただ、ハーフエルフがこっちに来てもらっては困るから、チョットそこで待っていてくださいとお願いすればいい。「《レアル》の恩寵独占禁止」なんか、いくらでも言い訳できるではないか……なのにこの期に及んで何を気にする必要がある?
まったく、
内心ではそんなことを考えつつも、これ以上言っても感情的になってしまった相手には徒労でしかないことを知っているアグリッパは憮然とした表情のままで閉口するばかりであった。
だが、火を点けられたまま放置されたとあっては周囲はたまったものではない。
「何だその態度は!」
「無礼ではないか!?」
「
「ま、まあお待ちください!!」
先ほど、アグリッパに助けられたためか、今度はゴティクス・カエソーニウス・カトゥスが
「先ほどもご説明いたしました通り、今ハーフエルフたちを抑え込めるだけの兵力を投入する余裕はありません。物理的に不可能です。
この状態でルクレティア様がアルトリウシアへお戻りになられれば、ハーフエルフたちもアルトリウシアへ来てしまうことは避けられません。」
アグリッパに対する弁護を展開すれば今度はゴティクスに攻撃が集中し始める。
「貴官までもが
「ルクレティア様にハーフエルフの矢面に立たせるなど、考えられん暴挙だ!」
「相手がハーフエルフだからとて、小勢の敵を軍人が恐れるのか!?」
「そうは言っていません!」
さすがに非理性的な発言には対処のしようがないが、それでも実務者である以上は逃げることなど許されない。まして理知というものを過信する傾向にあるゴティクスは顔を引きつらせながらも理を説き続ける。
「ルクレティア様を利用しようというのではありません!
まして《
「利用しようとしているではないか!?」
「そうだ!確かに聞いたぞ!?」
「静まりなさい!!」
怒号に近い声が溢れかえる中、エルネスティーネの声が響き渡った。
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