第1233話 装備変更
統一歴九十九年五月十一日、夜 ‐ グナエウス街道/
思わず大きな声を出したスワッグに対し、ティフは静かに人差し指を口に当て、それからその手の親指で後ろを
「
「
スワッグは
「あいつら英語なんか分からないから大丈夫ですよ」
自身の
「あの御者はそうだろうが、牧師の方は分からんぞ?
アイツ、NPCにしちゃラテン語に訛りが少なかったし、育ちがよさそうだ」
ティフにそう言われると反論できない。キリスト教に限らないが聖職者は知識階層だ。そして
スワッグは己の軽率さを改めて恥じながら、しかし訴えを取り下げることはしなかった。
「大声を出してしまったことは謝ります。
私が軽卒でした。
ですが、このままレーマ軍の砦に行くのはおやめください。
スワッグが改めて訴えるのを聞きながら、ティフは乗り出していた身体を戻して前を向いた。
「
お願いです!
どうか考えを改めてください!!
大切な
ティフは前を向いたまま口をへの字に結んで馬を進めていたが、スワッグが声を潜めながらも身を乗り出して訴えかけると、大きく溜息をついた。そしておもむろにゴソゴソと身に着けていた装備を外しては、肩から下げていた
「……
どうやら装備を交換しはじめたティフにスワッグは不安を覚え始めた。
装備変更? ……ここへ来て?
戦闘の前に装備を変更するのはあることだ。それ自体は珍しいことではない。だがスワッグの知る限りティフは今朝、シュバルツゼーブルグに入る際に既に装備を整えていたはずだ。《
「
何をなさっておられるのですか!?」
「見て分からないか?
装備を変更してるんだ」
「それは分かります。
何故です!?
この後の戦闘に備えて変更するならおっしゃってください。
装備変更が必要なら我々も装備をそれに合わせないと!」
「お前たちはそのままでいい。
戦うためじゃないんだ、むしろ戦わないから変更してるんだよ」
「どういうことです?
これからレーマ軍の、敵の懐に飛び込むんでしょう!?」
「戦うためじゃなく交渉のためだ。
言っただろ、戦うつもりはないって?
それなのに臨戦態勢のままで訪れたって、相手は警戒して交渉に応じてくれないかもしれない。
《
「ですが!」
言い
「お前の言う通りだ。
もしレーマ軍に捕まって
だから、もし捕まっても
そう言うとティフは先ほど外した装備を入れ、苦労して外した肩下げ魔法鞄をスワッグの方へ突き出した。
「スワッグ、コレを預かれ。
俺の
無くすなよ?」
「本気ですか!?」
「当然だ、さあ早く」
スワッグはおずおずと手を伸ばし、鞄を受け取るとティフは続けた。
「俺はもちろん諦めてない。
必ず脱出するつもりだ。
お前たちは砦に入らず、そのまま峠を越えてペトミーを探せ」
「
「そうだ、ペトミーとファドと合流しろ。
俺も脱出したらそっちへ行く。
もし捕まって行けなかったら助けに来い。
ファドとペトミーが居れば、あの《
「ほ、本気なんですね?」
スワッグが神妙に尋ねると、ティフは腰のベルトに
「当然だ。
ほら、脱出に必要な最低限の
それに今着けてる
レーマ軍を蹴散らすくらいはこれで充分さ」
しぶしぶながら納得したスワッグが受け取った魔法鞄を外套の上から肩下げ帯に首を通してたすき掛けに下げると、ティフは首のあたりをゴソゴソと動かし、先ほど山荘で見せびらかしていた笛のついたネックレスを外してスワッグに突き出す。
「ほら、コレもだ。
ペトミーのテイム・モンスターやファドのジェットを呼び出すのに使えるぞ」
「お預かりします」
スワッグがそれも受け取ると、ティフはどこか安心したように言った。
「もし、俺の救出に成功したら、そいつはお前に褒美にくれてやる」
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