第1059話 リュウイチの報告(2)
統一歴九十九年五月十日、晩 ‐
『それ……なんですが……』
なんだ……?
戦後多数生まれたゲイマーの子たち……赤ん坊たちが引き起こす魔力暴走事故には当初、子供を産んだ母親や
ならばここでフェリキシムスの魔力暴走に対応するのは当然リュウイチであろう。何せ世界一の魔力を誇り、神にも等しい強大な精霊を使役しているのだ。実力に不安は無いはず。なのにリュウイチは気まずそうにしている。その態度に違和感を覚えたアルトリウスは戸惑っているうちにリュウイチの言葉を思い出した。
そういえばさっき、『事後になりますが』と……
アルトリウスの胸中が急にざわめき始める。リュウイチはルクレティアのために強力な
リュキスカはルクレティアと違い、既にリュウイチのお手付きという実績を有する聖女だ。奴隷たちと同じく降臨者の所有物という位置づけになるため、大協約上の制約は無い。が、今回はそのリュキスカの実子、フェリキシムスだ。
聖女リュキスカに魔導具を与える、精霊を授けるということであれば大協約上の制約は無い。が、そうであるからこそ、リュウイチがリュキスカに何を与えたとしても、アルトリウスたちには何も文句も注文も言えない。
しかし、もしもフェリキシムスに何かを与えたとなれば、それは明確に大協約に抵触してくるだろう。リュキスカはリュウイチの聖女だがフェリキシムスは違う。リュキスカの実子ではあるが、フェリキシムスはリュウイチとは何のつながりも無いのだから、赤の他人……一般のヴァーチャリア人に過ぎないのだ。
今からでも取り返しがつくことなのか?
ポーカーフェイスを保とうとしていたアルトリウスの試みはわずかに失敗していた。顔半分は成功していたが、反対側の目元が
『《
アルトリウスは表情は変えずにゴクリと喉を鳴らす。
「《
『はい……その、ひとまず赤ちゃんが魔力を発散させて、それに野良の精霊たちが反応して騒ぐのを止めさせるのがまず先決だと思いまして……
ただ、騒ごうとする精霊を制御しなきゃいけないって話なんですけど、正直言って私には具体的なやり方はよくわからんのですよ。』
意外なリュウイチの一言にアルトリウスの片眉が上がる。これはオトと同じような反応だ。リュウイチはそれを無視して話を続ける。
『それに、私がリュキスカの部屋に居座るわけにもいきませんし、かといってまた何の相談も無しにリュキスカに
それで……ひとまずこの屋敷内なら特に
リュウイチは一気にまくしたてるように言った。それは何か後ろめたい出来事を言い訳するかのような様子であった。
一応、リュウイチもルクレティアに魔導具を与えた一件から反省はしていたようである。確かに何も対策もしないままでは火事や家屋の倒壊などといった事故が起きかねないので何らかの対応は必要だっただろう。その必要性に対してなるべく目立たないように、騒ぎにならないように考えて応じていたようだ。
アルトリウスは未だ続く胸騒ぎを自覚しつつリュウイチに尋ねる。
「その……お付けになられた《
上目づかいで用心深く尋ねるアルトリウスにリュウイチは少し気圧されたように仰け反り、数拍置いてからコクリと頷いた。
『……もちろん!』
「ふぅ~~~~っ」
安心したのかアルトリウスは大きく息を吐き出しながら脱力させた。どうやら、大協約に反すること、後々問題になりそうなことはなさそうだ。リュウイチが見張りにつけたという《風の精霊》がおかしなことでもしない限りは、騒ぎになることも秘密が露見することも無いだろう。
アルトリウスの反応にどうやら問題は無かったようだと察したリュウイチはホッと胸をなでおろす。
『一応、これは応急処置として考えていて、正式な処置はまた、皆さん方と相談しながら決めようと思っています。
明日、丁度皆さん、またこちらへ来られるんですよね?』
「はい、明後日は日曜ですから、侯爵家の礼拝のために……」
アルトリウスは緊張が和らいだためか、喉の渇きを覚え、
『また、会議があるんでしょうから、できればこの件も議題に挙げていただけると助かります。』
リュウイチも同じく角杯を手に取り、黒ビールで口を湿らせる。
「もちろんです。
ただ、事が事ですから、こちらには
『それは承知しています。
そもそもリュキスカの同意をまず得なければならないでしょう?彼女は赤ちゃんの母親で、言って見れば一番の関係者なんだし、そのためには彼女が回復してからじゃないと……』
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