第814話 明かされた叛乱の事実
統一歴九十九年五月十一日、午前 ‐ アルトリウシア子爵邸/レーマ
エーベルハルト・キュッテルが視線をあげると、その先には大きく見開かれたグナエウシア・アヴァロニア・アルトリウシア・マイヨル子爵令嬢の潤んだ瞳が揺れているのが見えた。
さて……言うべきか、伏せるべきか……
もしもここで大グナエウシアにすべてを話してしまったら、どのような影響があるだろうか?大グナエウシアはこの後再び『
しかし、もし本当に皇帝が意図して
だが、その立ち回りを御歳十四の
さすがに無理に決まっている。
「キュッテル殿」
エーベルハルトの逡巡を見て取った大グナエウシアはふと表情を引き締め、背筋を伸ばして鋭い眼光をエーベルハルトへ向ける。
「確かに女の身には
まして私はまだ十四の子供です。
ですが、私は
その声にはしっかりと力が籠っていた。エーベルハルトの目を見返す視線にも迷いは見られない。
「失礼しました、
彼女なりの覚悟を見て取ったエーベルハルトは、そう言いながら自分も上体を起こし、姿勢を正した。そして改めて大グナエウシアを見据えると、大グナエウシアは表面上は毅然とした態度を保ってはいたものの、その目にわずかに変化を生じさせる。どこか恐れるような、あるいは
「あ~……まず、このことはもちろん
エーベルハルトは無意識に大グナエウシアから視線を逸らし、言葉を選び始める。大グナエウシアは膝の上に置いた両手をギュッと握りしめはしたものの、それ以外はそのままの姿勢で全神経をエーベルハルトの次の言葉へと向けた。
「つまり、
ですから、
よろしいですか?」
確認を求めるエーベルハルトが向けた視線に大グナエウシアは一瞬身を
「お約束します。
ここだけの話にすればよいのですね?」
その真剣な眼差しに、エーベルハルトは改めて自分の中であきらめがつくのを感じた。なんだかんだ言って、未だに迷いがあったのだ。思わずフーッと息を吐く。そして、気合いを入れなおすように深呼吸すると、改めて言葉を紡ぎだした。
「……降臨のあったその日、アルトリウシアで戦がありました。」
エーベルハルトの押し殺したような声に、大グナエウシアの目がわずかにピクリと動き、眉が寄ってすぐに戻った。エーベルハルトは続ける。
「
「
何故か大グナエウシアもエーベルハルトと同じように声を潜める。
「はい、逃亡した後の
街には被害が出たようですが、どの程度の被害かは書かれていませんでした。
おそらく、一刻も早く降臨を報告せねばと、叛乱のことは二の次にしたのでしょう。」
予想外の話に大グナエウシアは思わず身を起こし、胸元に下げたロケットペンダントを握った。中には家族の細密画が収められているものだ。もしも彼女の顔が体毛で覆われて無かったら、血の気が引いて真っ青になった様子が露わになっていた事だろう。だがコボルトの血を引く彼女の表情は真っ白な体毛によって覆い隠され、外からは瞳孔が小さくしぼむのが見えるくらいだ。そして、エーベルハルトはその表情の変化に気づくことなく、話を続ける。
「ですがご安心ください。
御領主様方は
エーベルハルトが話し終えると大グナエウシアは二度、三度と瞬きを繰り返し、潤み切った瞳を震わせるとスッと俯いた。胸元のペンダントを握る手にギュッと力が入る。
「へ、陛下も、ひとまず、家族のことは安心するがよいと、おっしゃっておられました。」
そうか、あれはそういう意味だったのね……気づけなかった自分が不愉快なくらいに馬鹿に思えて仕方ない。
「はい、
「でもっ!
これから
レーマは叛乱を許しません。ランツクネヒト族もそうなのでしょう!?」
安心させようと宥めるエーベルハルトに対し、大グナエウシアはムキになったように反論した。今、自分の未熟さに気づかされたばかりの大グナエウシアには、エーベルハルトの優しさは却って馬鹿にされたかのような反発しか呼び起こさない。
大グナエウシアの顔は、目元だけだが涙に濡れていた。ここのところ緊張続きで涙もろくなっていたのかもしれない。戦が起きたと聞き、居ても立ってもいられないような感情の昂ぶりを抑えきれなくなっていたのだ。
戦は終わっていない。女で、そして子供な自分でもそれくらいは分る!
しかしエーベルハルトはそんな大グナエウシアに優しく微笑んだ。
「たしかに、叛乱軍は討伐されるでしょう。
ですが、それがいつのことなのかはわかりません。
叛乱軍は逃げてしまいましたし、まさか降臨者様の御前で戦をするわけにもいかないでしょう?」
その指摘に大グナエウシアは息を飲む。
言われてみれば確かにそうだ。世界を破滅に導くほどの力を持つとされるゲイマー、その眼前で戦をするなんて火薬庫の前で火遊びをするようなものだ。
「だからこそ、御領主様方は連名で
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