第214話 暇を持て余すリュウイチ
統一歴九十九年四月十八日、昼 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
今日の日中、リュウイチはすることが無かった。
ルクレティアもリュキスカもクィントゥスも
「御自身の
八人の奴隷たちの中でリュウイチと接点が多いのはネロとリウィウスだ。ネロはもともと
『彼女はこっちに来てからほとんどずっと閉じこもってるみたいだけど大丈夫なんですか?』
「さあ、アッシにゃあ良く分かりやせんが、女ってなぁだいたい家で過ごすもんですし…」
男尊女卑社会のレーマ帝国では女性は家で大人しくしているものという価値観が一般的であった。
『
「世界の全部がそうかって言われっとアッシもそこまで
貧しい
『えぇ、買い物とかしないの?』
「
だいたい、毎日顔突き合わせてるような顔馴染み相手ならともかく、女が売り買いしようとしたら足元見られちまいやすから、女は下手に買い物とかしねぇ方がいいんでさ。
出かけるってったら
『競技場や劇場があるんだ?』
「いや、アルトリウシアにゃ無ぇです!」
一般論を話したつもりだったリウィウスはリュウイチに競技場や劇場がアルトリウシアにもあると勘違いさせてしまったことに気づき、慌てて否定した。
『無いの!?』
「造るってぇ話はあったみてぇですが、一昨年火山が噴火しやしてね。それで避難してきた連中のための家やら水道やらを造るのが先だってぇんで・・・
まあ、今ぁ演習場で
アルトリウシアは新属州アルビオンニア東部防衛のために建設が開始された都市である。レーマ帝国がアルビオン島に進出して最初の都市である州都アルビオンニウム建設が始まってからまだ百年も経っていないし、このアルトリウシア地方へ本格的に進出しはじめてから半世紀も経っていないのだ。
純粋に軍事目的で建設が始まったアルトリウシアは州都アルビオンニウムとの交通線の確保を第一に、次に防衛拠点の建設を優先してリソースを投入されており、人が住む市街地など民間用インフラの整備は後回しにされ続けていた。そのアルトリウシアが子爵領となって本格的に都市インフラが整備され始めたのは統一歴八十一年…今から十八年前のことなのである。その間も海賊退治やら南蛮との戦争やらで都市建設は遅れに遅れており、トドメに火山噴火によるアルビオンニウム放棄で膨大な難民が流入したことから娯楽施設の建設計画なんてすべて吹き飛んでしまっていた。
『散歩とかしないんですか?』
「ご友人を訪ねるならともかく、用も無ぇのに出歩きゃしませんや。
『頭からクソ小便!?』
「ああ、
さすがに表通りは心配ねぇが、裏に回るとね。」
リウィウスはこればっかりはしょうがないと言いたげに笑いながら言った。
ある程度以上の都市部や市街地には人が密集する。すると土地が不足してくる。不足した土地に少しでも人を多く住まわそうとすると、二階建てや三階建ての建物が増え、住居は高層化していく。その結果生まれたのが
ところが、そうした
ところが、汚物を下層階まで持って降りるのを面倒くさがり、窓から捨てる者が後を絶たないのだ。上下水道もエレベーターも無い
もちろん窓から汚物を投げ捨てる行為は法律で禁じられてはいるのだが、見つからなければ捕まるわけ無いのだし、建物の外から投げ捨てたのが誰かなんて特定するのも不可能だ。共用階段の踊り場の窓から捨てれば、誰が捨てたかなんて誰にもわからない。まさか、すべての窓に見張りを立てるわけにもいかない。
結果、
アルトリウシアにはまだ本格的な
『ひどいな』
「だから高貴な御婦人は用もないのに出かけたりしやせん。
そのために
『でも、ここじゃ気晴らしには狭いだろうに・・・』
「この
普通の
『猶更、部屋に籠ってて気が滅入らないんですか?』
「さあねぇ…ただ、
他にも実はヴァナディーズは出身地がアルトリウシアなんかよりずっと赤道に近く、雨もろくに降らない乾燥した地域であったため、そもそも日中に屋外にでる習慣が無かった。もちろん、そうした地域でも労働者階級の者であれば働きに出はするが、ヴァナディーズは平民ではあったが割と裕福な家の生まれであったため外で働いた経験は無い。もっとも、リウィウスもさすがにそんな事情までは知らないのだが。
『それにしたって・・・』
「まあ、他にも
『私にですか?』
「この
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