第1126話 グルギアの疑問
統一歴九十九年五月十一日、夕 ‐
「新しい
「……はい。」
バルビヌスが
「済まんが詳しいことは何も言えん。
お前が本当にあの方々に
無論、お前も外で今日拝謁した方々についてしゃべってはならん。」
「
「正式に決まったものではない。」
食い下がるグルギアにバルビヌスは悪い冗談でも聞かされたかのように顔を背けた。
「ワシの個人的な感想にすぎん。」
言うんじゃなかった。少なくとも
怒らせてしまった!?
グルギアは一瞬
「
「んっ!?……ぬううん……」
グルギアに虚を突かれたようなバルビヌスは唸りながらも慌てて視線を逸らせる。グルギアはバルビヌスの表情の変化にチャンスを見出す。バルビヌスはグルギアを拒絶しているわけではなく、口を滑らせてしまうのを恐れているのだ。ならば……グルギアはカマをかけてみることにした。
「ですが、まさか
まさかあれほどの御方とは……」
バルビヌスはギョッとして目を見開き、視線をグルギアに戻した。彼の目に映るグルギアの表情には自信に満ちた笑みが浮かんでいる。
「まさか!……そうか、お前も
バルビヌスの漏らした言葉にグルギアはニィっと笑い、その怪しい笑みによってバルビヌスはひっかけられたと悟った。慌てて視線をそらし、口をへの字に結び、目までつむる。その反応はグルギアの想像が当たっていたことを如実に示していた。思わず本当に笑いそうになるのを堪えながら、グルギアはバルビヌスの顔を無言で観察し続ける。
グルギアの次の言葉が聞こえないことを不審に思ったバルビヌスが片目だけを開けてチラリと見ると、バルビヌスの顔を覗き込んでいたグルギアと目が合ってしまう。グルギアはフッと笑い、バルビヌスは再び目を閉じ顔を背けたまま口をへの字に結んだ。
「なんだ、魔力でも感じたのか?」
バルビヌスは目を閉じていたので見えてないが、あくまでも威厳を保とうとするバルビヌスの強がりを
「いいえ、私には人の魔力を感じとれるほどの能力はありません。
ですがあの御方は念話で話しておられました。
聞こえるのは初めて聞く言葉なのに、意味がちゃんと分かる……こんなことが出来る御方はそうそう見つけられるものではありません。」
念話か……!
思わずバルビヌスは両目を開けた。顔を背けていたのでグルギアの姿は見えなかったが、バルビヌスの脳裏にはグルギアが笑っている顔が自然と浮かび上がる。
何たる間抜け!
リュウイチ様は念話で話しておられるのだから、只者ではないことぐらい気づかれて当たり前ではないか!?
自分の間抜けぶりに驚き、内心で憤慨し始めるバルビヌスの耳にフッと笑うような吐息が聞こえた。目を動かし、そちらを見るとグルギアの顔が映る。
「リュ、リュウイチ様は確かに念話で話しておられた。
だがそれは
何という魔導具だったか……その名は忘れたが、とにかく身に着けた者は言葉の通じぬ相手と念話で会話できるようになるという代物なのだ。」
バルビヌスはグルギアから顔を背けたまま、壁か天井を睨みつけるようにしながら一気にまくしたてるように説明した。
「そのような
「ふふんっ」
押されていたバルビヌスは初めて優位に立てたような気がして思わず鼻で笑ってしまう。
「お前はモノを知らんようだな。
ここはアルビオンニアだ。
ここより南は
だからここらにはムセイオンに収蔵されていない
ムセイオンに魔導具を納めるというのは大協約によって定められたルールだ。しかし大協約はレーマ帝国と啓展宗教諸王国連合の間で結ばれた講和条約のようなものであり、
だが、蛮族は大協約に批准していなくともレーマ帝国は批准している。グルギアはそこを突いた。
「あら、ならばムセイオンに御報告いたしませんと!」
蛮族は魔導具を所有し、用いることもできるかもしれないが、レーマ帝国はしてはならないのだ。だからたとえ蛮族が魔導具を所有し、使用もしていたとしてもレーマ帝国臣民はやってはならない。蛮族から魔導具を手に入れたなら、その時点でムセイオンに収蔵する義務が生じてしまう。
「報告なら既に
お前が気にすることではない。」
「報告なされたのに、何の処置も無いのですか?」
ムセイオンに報告したのに放置されているという事実にグルギアは驚いた。グルギアの知る限り魔導具の扱いは非常に慎重を極めるものであり、ムセイオンで厳重に管理されている。実際、せっかく貸し出してもらえた魔導具を盗まれたグルギアの父は、彼自身に非があったわけでもないのに処刑され、グルギアの家族は全員が奴隷にされてバラバラに売り払われるという最悪な目にあわされている。だというのに、いくら蛮族から手に入れた魔導具とはいえムセイオンが放置しているとしたら納得がいかない。それが許されるのなら自分たち家族の運命は一体何なのだ?
「お前が気にすることではない」・・・そう言って突き放したのに、まだ食いつき続けるグルギアにバルビヌスは苛立ちを覚え始める。まだ本人は自覚してなかったが、しかし腹の底で渦巻き始めた不快感をバルビヌスは無意識に抑え込みながら答えた。
「まだ
報告を届ける
ムセイオンに届くのはあと半月は先だろうな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます