第179話 新たな秘匿対象
統一歴九十九年四月十七日、朝 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
このため
リュウイチはその内の一つにまだ泣き止まないリュキスカを宥めながら連れて行き、リュキスカに着替えを用意することを申し出た。
「服?
そりゃ今こんな格好だし、貰えるんならありがたいけどさ。」
リュキスカは商売用のスケスケのトゥニカを着ていて、男の視点からすればお色気満点だが、秋も深まった今となっては見ている方が寒くなるような恰好だった。
レーマでは娼婦は髪の毛を青かオレンジに染めるか、今リュキスカが着ているような身体が透けて見える服を着なければならないことになっている。季節的に寒い時期はみんな髪を染めて厚手の服を着るのが普通で、リュキスカもそうするつもりだった。しかし、出産後初めて仕事に復帰するリュキスカは髪の染色に失敗してしまった。ホントは髪をオレンジに染めるつもりだったのに、染髪料が古くて変質してしまっていたために
今のリュキスカは精神的ショックと寒さで顔色が真っ青だ。口紅を塗って無ければ唇も真っ青になっていた事だろう。
『あんまり大した物は用意できないんだが、どんなのがいいかな?』
「別に今着てるコレよりマシなモンなら何だっていいけどね。
アタイは娼婦だからストラは着れないけど、別に男物だってかまやしないよ?」
何がしか選択肢があってどれを選択しても何らかの都合/不都合が生じるわけでは無い場合、こういう風に「何でもいい」と答えられるのが一番困る。特にセンスが問われるようなファッションや食事なんかだと余計だ。何でもいいんだなと言葉通りに受け取ってホントに何も考えずに「じゃあコレ」といい加減な決定を下すと間違いなく後でボロクソに批判されたりするのだ。
『いや、「何でもいい」っていうのが一番困るんだけど・・・』
実を言うとリュキスカはホントに何でもいいと思っていた。
リュキスカはアルビオンニウムにいた頃はそこそこ稼げる
持っている服だって商売用を除けば。粗末な
「そうは言ってもアタイだって、兄さんが何を用意できるのかわかんないしさ。
てか、兄さん。こっち見て話しなよ!?」
実は
それはそうだろう、全裸の上にスケスケのノースリーブ・ワンピースを着ただけの姿は刺激が強すぎる。そういう店でそういう遊びをするつもりでいる時ならともかく、そうではない時に裸同然の女性の姿はリュウイチの罪悪感を刺激するのだ。
昼間から酒を飲むことに抵抗を覚えてしまうのと同じだ。気にしない人物は気にすることなく昼どころか朝からでも酒を飲むが、リュウイチは気にする性質だった。
『えっ!?あ、いや。そうなんだけど・・・』
「何照れてんだい!?
あんなトコだって舐めるしさ。」
『あんなトコ?・・・え、変だった!?』
思わず驚くリューイチに逆に驚くリュキスカ。
「あ、当たり前だろ!?
アタイ、あんなトコ舐められたの初めてだったよ!」
『マジか・・・』
《レアル》古代ローマの文化を色濃く引き継ぐレーマ帝国ではクンニリングスはタブーであり、変態的な行為とみなされている。セックスによる快楽は女神ウェヌスからの贈り物であるとされ、それを
しかし、身分社会である以上、セックスの主導権は常に身分の高い者が握り、身分の低い方は奉仕者でなければならない。同時に男尊女卑社会であるため、女性が男性に奉仕する側でなければならないとされている。
ゆえに、男性が奴隷の場合はともかく、自由民の男性が女性に口で奉仕する行為などあってはならないし、そういう行為を行う男性を指す言葉「フェッラートル」は男性に対する最大の侮辱とされていた。
「ア、アタイも商売だからさぁ。
別に兄さんのこと言いふらしたりはしないよ。
ただ、ちょっとビックリしただけさ。」
『ああ・・・はい・・・いや、でもその恰好見てるとやっぱ催しちゃうし』
「別にアタイは娼婦だし、金くれりゃいくらでもシてくれていいけどね。
できれば赤ん坊連れて来てからにして欲しいね。」
『それについてはクィントゥスさんが行ってるから。
ひとまずコレでも羽織って。』
リュウイチはひとまずストレージからバスローブを取り出してリュキスカに渡した。
「あの
えっ、ちょっと兄さん今どこから・・って、コレ何だい!?
ダルマティカ!?」
バスローブを受け取ったリュキスカが驚きの声をあげ、バスローブを広げたりひっくり返したりして
『バスローブだけど?』
「え、これ
毛布みたいじゃないか、すごいモコモコしてるよ。」
『え、コットンだと思うけど?』
「
へぇーっ、ホントだフサフサしてんのこれ毛じゃなくて糸だねぇ。
小さい輪っかがいっぱい作ってあって・・・
はぁーっ、こんなの見た事ないよ。」
リューイチがリュキスカに渡したのコットン製のタオル地のバスローブだった。
毛布や絨毯が存在するぐらいなのだから、タオル地を作り出すためのパイル織りは当然
『とりあえずそれを着てくれる?
で、今から適当に服を出すからそれを選んでもらうってことで。』
「え!?これじゃないのかい?
なんかアタイ、これで十分なんだけど。」
『いや、さすがにそれ着て外を出歩けないでしょ?』
「そうなのかい?
アタイ、こんな立派な服見た事ないよ?」
『ああ、その・・・それは風呂上りに着るためのものだから。』
「へぇ!それだけのためにこんなの着るのかい?
はぁーっ、
「失礼しやす。
リュキスカが騒いでいる間にリウィウスが食事の用意を整えた事を伝えに知らせに来た。
『ああ、ありがとう。いや、場所は別の部屋でお願いします。』
リウィウスが「
『着替えの服を選ぶのは朝食の後にしよう。
とりあえず君はそれを着てくれ。』
一方、時を少し遡ってリュウイチとリュキスカが去った後、
「いいかお前たち、大事なことだ。
これから私は
もしも、私が帰って来る前に
「そいつぁ
「
それなのにリュウイチ様の
どうなるかわかるだろ?」
「「「「「「「「ああ・・・・・」」」」」」」」
奴隷たちがなるほどと納得する。
「で、でも
だとすると、今だけ隠したところで・・・」
「皆まで言うな。
それは私も分かっている。
だが、いきなり知られるより、
「
「私だって
お前たちだって、これ以上面倒な問題は起こしたくないだろ?」
「わかりやした。」
リウィウスが代表してそう言うと全員が頷いた。
「お前たちの中で子供を持ったことのある者は?」
奴隷たちは顔を見合わせた後、オトがおずおずと手を挙げた。
オトは火山災害の前はアルビオンニウムの印刷工房で働いており、普通に家庭を持って妻子を養っていた。彼の家族は火山災害後に降った雨が引き起こした土石流で家ごと流されてしまったが・・・。
「よし、ネロとお前は私について来てもらう。
受け取った子供の面倒を見てもらうぞ。
他はいつも通りの仕事プラス、
絶対に
リュウイチ様にもお願いし申し上げておいてくれ。」
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