第44話 マニウス要塞城下町侵入
統一歴九十九年四月十日、朝 - マニウス要塞城下町/アルトリウシア
城下町の中央には、
歩道を挟んだ両脇には御用商人の店舗と倉庫が連なっており、城下町の中でも特に
アルトリウシアはもちろんレーマ帝国の都市部にすむ一般市民は普段料理を一切しない。家にキッチンが無いのだ。
これは住宅密集地での火災発生を防ぐためであり、一般家庭では必要最低限の灯りや暖房を除き火を使う事は無い。
キッチンがあるのは客人を招いて
このため市民が食事をするときは飲食店に行って食事をするか、調理済みの食料をテイクアウトで購入するか、
配給で未調理の穀物などを受け取った場合は、どこかの飲食店に持って行って調理してもらうか、水車小屋や風車小屋で曳いてもらったり粉屋で粉に替えてもらって、自分で捏ねてパン生地にしたものをパン屋に持って行って焼いてもらうなどする。
だから朝食時ともなると道路上は朝食を取りに
今朝も要塞周辺の通りは毎朝恒例の賑わいを見せていた。
アルトリウシアの小さな都会とも呼べる要塞前の街角に、普段とは違った喧噪が起こったのは十四騎のゴブリン騎兵が姿を現してしばらくたった後のことだった。
最初に騎兵たちが現れた時、街ゆく人々は彼らが伝令か、さもなければ演習でもしてるのだろうと思った。
素行が悪い事で知られる
マニウス街道を要塞に向かって進む彼らの姿に対し、奇異には感じても危機を感じる者は一人としていなかった。
日は雲に隠れているとはいえ既に十分明るくなっているというのに、松明を掲げた彼らの姿はむしろ滑稽にすら思えたほどで、中にはワザワザ建物の中から出て来て見物する物好きも幾人かいたくらいだった。
ところが彼らは要塞へは行かなかった。
彼らは要塞手前で二騎ずつに分かれると一斉に裏通りへと散っていったのだった。
ガタイも体重も馬と大差ないが蹄を持たないダイアウルフの足音は独特である。
ドッドッドッドッと肉球が地面をたたく重々しい足音と、カリッカリッカリッカリッと石畳をひっかく爪の音が組み合わさった、一度聞けば忘れられないような特徴ある足音だ。
それがマニウス街道とは打って変わって人がかろうじてすれ違えるかどうかという程度の狭い裏通りに響いている。
何の音だと気になって表に出てきた住民たちは突然姿を現した巨大な狼の姿を目の当たりにして、ある者は恐れおののいて近くの建物へ逃げこみ、ある者は腰を抜かしてその場にへたり込む。それらを容赦なく跳ね飛ばし、踏みつけてダイアウルフは鼻息も荒く進んでいく。その行為はまさに蹂躙と言って良かった。
しかし、そのダイアウルフを駆って無人の野を征くが如く傍若無人に振る舞うゴブリン騎兵の顔には、態度とは裏腹に焦りの表情が浮かんでいた。
彼らの任務はこの町に火をつけて大規模火災を引き起こし、マニウス要塞に残っている
そのために昨日は町のあちらこちらに、藁束や油を染み込ませたボロ布などを雨に濡れないように仕掛けておいたのだ。
それらに松明で火をつけて回れば目的は達成する。
あとは逃げ帰ればいい。
簡単な任務だ。
なのにその仕掛けが一つも見つからない!!
レーマ帝国軍は通常の軍務の他、
行進訓練や犯罪者・スパイ・脱走兵等の見つけ方や捕まえ方の実地訓練を兼ね、防犯・防火のために町中を見回る彼らには、必要と判断すれば個人宅だろうが商家だろうがどこへでも自由に立ち入ることのできる強い権限が与えられている。
それが毎日二、三時間置きに昼夜を問わずパトロールを繰り返しているのだ。
早い話が、ゴブリンたちが準備した仕掛けは昨日のうちに撤去されてしまっていた。
ゴブリンたちが町のあちこちに仕込んだ藁束や油の染み込んだボロ布などは、仕掛けた直後のパトロールで警察消防隊に見つかってしまった。
不可解極まるその事実は
要塞内で待機状態にあった全兵員に動員がかけられ、要塞周辺の城下町全体をくまなく点検するローラー作戦が実施されていたのだった。
結果、城下町西側の裏路地約五十か所に仕込まれていた放火用の仕掛けは、ついでに見つかった不法に集積されていた可燃ゴミと共に綺麗に片付けられてしまっていたのだった。
ゴブリン騎兵は前日に清掃されていつも以上に綺麗になってしまった裏路地を、ありもしない焚き付けを求めて空しく
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