グナエウス砦の朝
第1196話 聖貴族たちの朝食
統一歴九十九年五月十一日、朝 ‐
レーマ帝国の軍事施設の代表例とされるのが
規模の違いは大きいが、それでも造りが共通している部分も多い。
皇帝の神格化ではないか!? ……そうした批判は以前からあった。皇帝という存在に否定的な
レーマ貴族が朝起きて最初にすることと言えば、各家庭に設けられた
とはいって司令部の玄関ホールは既に公共の場である。家庭内で祈りを捧げる時は朝起きて直ぐにするため、身だしなみもしていない寝起きそのままの状態で祈りをささげることになるのだが、一般の兵士や軍属たちがいるところへ貴族がみっともない恰好で出ていくことはできないので、普段とは違い身だしなみを整えてから祈りを捧げることになる。
「おはようございます。
お待たせしてしまったようで申し訳ございません。」
食堂の前、朝露に濡れた
「ああ、構わないさ。
我々も今来たところだ。」
「すぐに朝食の御用意をいたします。
どうぞ中へ……」
スカエウァがそう言って扉の方へ案内すると、メークミーとナイスは「そうしよう」と答え、連れ立って食堂へ入った。席に着きながらナイスが本心では全く気にもしてないという風に尋ねる。
「今朝はどうしたんだ、
貴族は客を自宅に招いたならば、基本的に食事を共にするのが通例だ。客分を放置し、あまつさえ一人きりで食事をさせるなど貴族にあるまじき無礼である。そして、メークミーとナイスは虜囚の身ではあるが聖貴族という身分でもあることから、客分に近い扱いをうけることになっていた。捕まって以降の食事も、基本的に毎回カエソー・ウァレリウス・サウマンディウス伯爵公子に食事に招待されていたし、最初のまだ反抗を諦めてなかった頃はともかく、虜囚という立場を受け入れてからは二人ともそれに応じるようにしている。
しかし今日の朝食にカエソーの姿が無い。招待されて断ったわけでもないのにカエソーの姿が彼らの食卓にないのは、彼らが捕まってから初めてのことだった。スカエウァは申し訳なさそうに困惑の表情を浮かべ、二人の前に下級神官が運んできた朝食の盛られた皿を並べながら答える。
「申し訳ございません
スカエウァの答えを聞くとナイスとメークミーは互いに目を見合った。
「すると、今回は我々二人だけで食事を摂るのか?」
「申し訳ございません。」
メークミーの質問に謝るようにスカエウァが答えると、ナイスが「フッ」と笑って言った。
「まあいいさ。
お前が代わりを勤めるがいい。」
「よろしいのですか!?」
スカエウァは驚き尋ねた。
スカエウァは降臨者の血を引く聖貴族ではあるが、代を重ねるうちに魔力を失った古すぎる血統の
たとえば一昨日の夜のシュバルツゼーブルグでの晩餐会はスカエウァもシュバルツゼーブルグの
レーマ帝国では未婚の女性が家族でも親戚でもない他人の男性と食卓を共にすることは基本的に許されない。それは不道徳とされている。たとえ正式に招待されたとしてもだ。未婚の女性が他人と食卓を共にするのは父や兄などの保護者が出席する場合で、なおかつその同伴者として出席する場合に限られるのである。ゆえにルクレティアがメークミーやナイスと食卓を共にするためには、まずルクレティアの保護者足り得る男性を招待し、その同伴者としてルクレティアを連れて来させる必要があった。そこで昨夜はルクレティアの従兄であるスカエウァがやむなく招待されていたのである。
だが今、この場にルクレティアの姿はない。未婚の女性が保護者に伴われてという条件を満たしたとしても、家族以外の男性と食卓を共にするのは晩餐に限られるからだ。朝食は基本的に男性は男性だけで、女性は女性だけで摂る。もちろん家族はその限りではない。
レーマ帝国の風俗・慣習・文化に照らし合わせ、朝食にルクレティアを同席させることが出来ない以上、スカエウァを招待することもない。ゆえにスカエウァは朝食や昼食では、二人の給仕に徹しなければならなかった。ただの召使が客分と食卓を共にするなど本来ならあり得ない。身分が違うから当然だ。だというのに今、ナイスから同席を許す発言があった。これはスカエウァにとって非常に名誉なことであった。
「かまわないだろ?」
「ああ、座れよ。
その方が
ナイスがメークミーに尋ね、メークミーも快諾するとスカエウァは満面の笑みを浮かべた。
「おお、ありがとうございます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます