第895話 乗り気になったアース・エレメンタル
統一歴九十九年五月九日、夜 ‐
『
頭の中に《
『そこの黒い男に言ってやるがよい。
ワシが出来んことを提案したとでも思っておるのかと!?』
「いえっ、そのようなことは無いと……思いますが……」
ルクレティアが
二人の視線と表情に気づいたルクレティアは目とジェスチャーで「ちょっと待って」と合図し、《地の精霊》との対話に集中した。
『ならば何だというのじゃ?』
それは恐れながら、あのインプにそのような役目を与えても、果たすだけの力が無いのではないかと心配してのことだと思いますが……
ルクレティアは今度は声に出さないように《地の精霊》に答える。いつも
『同じではないか。
その男はインプのことをワシ以上に知っているとでもいうのか?』
いえ、決してそのような……
『あのインプは義理堅く約束を守り、仕事には忠実であろうとする者じゃ。
ワシに捕まった時も決して手紙を手放そうとはせなんだ。
自らの死を覚悟しながらも
そのインプがハーフエルフに騙されたことに
だが、ハーフエルフめに対するには力なく、
ゆえに、報いる機会を与えてやろうと言うのではないか。』
インプはその見た目通り、身体は小さく力も弱い。人間よりも貧弱な存在だ。女子供でも簡単に、たったの一撃で殺すことが出来てしまうだろう。
だが《地の精霊》の拘束魔法
意気に感じた《地の精霊》は結局インプの願いを聞き入れ、ルクレティアに話を持っていき、こうしてインプが直接手紙を手渡す機会を作ってやったわけだが、そのインプは実は騙されていたことが明らかになる。命を危険に晒して手紙を届けたというのに、その報酬として支払われた金貨は偽物……インプにとって何の価値もないただの黄銅貨だったのだ。
それだけでも十分気の毒なのに、ここへ来て情報だけ聞き出したらとっとと殺してしまおうなどとアロイスが言い出しはじめている。しかも、インプを気の毒に思った《地の精霊》が報復の機会を与えてやろうと提案したのを蹴ってだ。
お、
《地の精霊》の言葉から《地の精霊》が珍しく
《
キュッテル閣下は、それを懸念しておられるのかと、愚考いたします。
目を閉じていたルクレティアには見えなかったが、その時 《地の精霊》は一度フワッと浮き上がると再び元の位置に戻った。
『力が無くば、
ルクレティアはハッと目を見開き、眼前に浮かぶ《地の精霊》を見上げる。カエソーとアロイスは何事かとギョッとするが、いかんせんルクレティアは今 《地の精霊》と念話している真っ最中……先ほど身振り手振りで待つように指示されたこともあって黙って様子を見ることしかできない。
『その役目、ハーフエルフを捕える手柄と共に人間どもに与えてやろうと思うたが、人間どもに出来んというのなら致し方ない。
ワシだけでやってやろう。』
「お、お待ちください!!」
ルクレティアは思わず声に出し、カエソーらを驚かせた。ルクレティアは怯えるような目でカエソーとアロイスの方をチラリと見、それから再び《地の精霊》を拝むように顔を伏せ、目を閉じる。
お忘れですか!?
《
どうか
ルクレティアがそう念じると《地の精霊》は空中で8の字を描くように左右にユラユラと身体を揺らした。
『ワシの力を衆目に晒さんためにも、インプに力を貸してやるのじゃ。
あのハーフエルフどもは街を焼くなどと言ってきたのじゃろう?
ワシの力を街の住民たちに見せず、街を焼かせぬようにするには、あのハーフエルフどもをどうにかするしかないではないか。』
『それにはあのインプを利用するのが一番じゃ。
手紙を渡したハーフエルフを直接見ておるし、無関係な誰かと間違えることも無かろう。
何より己を騙したハーフエルフに報いたいと当人が望んでおる。
必ずやかのハーフエルフを見つけ出し、報いを受けさせてくれるじゃろうよ。』
小気味よい調子の念話からは《地の精霊》の自信のほどが伝わってくるようであった。いつもなら何事にも動じない《地の精霊》の自信に満ちた態度はルクレティアにとって大変心強いものであったが、今の暴走しているように思える状況で伝わってくる自信はむしろ無性に不安を駆り立てる。
で、ですが《
『まだ何か不安か?』
その……おっしゃられることは理解しました。
ですが、ハーフエルフ様を間違って死なせるようなことになっては……
『殺さずに捕まえて連れてくるように言えばいいじゃろう。
あ奴は義理堅く仕事に忠実じゃ、
ア、《
『それもインプに注文しておけばよかろう。
もとより妖精は人目に触れることを嫌う。
人目に触れることなくやれと命ずれば、そのようにするじゃろうよ。』
あと……こちらの兵士たちとの協力が損なわれるのは……
『
兵士を死なせることなくハーフエルフを捕えるのじゃから文句はあるまい。』
イ、インプへの報酬はどうなりましょうか?
あの小さなインプにハーフエルフ様を捕えるような大仕事、引き受けさせるにはそれ相応のものでなければ……
『ワシが力を貸すのじゃ。
その際に与える魔力がそのまま報酬になるじゃろう。
何なら、眷属に加えてやっても良い。』
何とか思いとどまらせたかったルクレティアだったが、彼女に思いつく限りの材料では《地の精霊》を説得しきれなかった。
『おお、そうじゃ!あ奴を眷属に加えてやろう!!
さすればあの小うるさいハーフエルフどもを大人しくさせる良い戦力となろう。』
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