第778話 謁見
統一歴九十九年五月十日、昼 ‐
グナエウシア・アヴァロニア・アルトリウシア・マイヨルが
そのことについて
常に後ろに控え、決して出しゃばらず、しかし事あるごとに有益な助言を欠かさなかった。それでいて大グナエウシアが自分で考えたいことはきちんと尊重し、答を出すまで待ってくれていた。大グナエウシアが失敗する時は大概タネの助言を無視した時だった。それでもタネは大グナエウシアを叱責することは無く、常にフォローに徹してくれていた。人前でオナラをしてしまった時など、後ろに控えていたはずのタネがサッと前に出て「申し訳ございません、今のは私です。」などと言い、大グナエウシアが恥をかかぬように
もちろん、帝都レーマで社交界デビューを果たしている彼女である。当然、従者であるタネから離れて一人の
「アルビオンニア属州アルトリウシア、グナエウシア・アヴァロニア・アルトリウシア・マイヨル子爵令嬢、ご
さあグナエウシア、気持ちを切り替えるのよ。
一歩踏み込んだそこは、しかし皇帝らしい人物の姿は無かった。床は黄色味が強いトラバーチンが敷き詰められ、壁から上は純白に近い大理石で作られている。それが向かって右側の大きな窓から入ってくる陽光によって屋内とは思えないほど明るく照らされていて
「…………?」
「そのまま、
大グナエウシアが戸惑っていると、先ほど彼女の来訪を告げた初老の名告げ人が低い声で促す。その手が指し示す右側を見ると、そこには列柱の並ぶの向こうに緑輝く庭園が広がっているのが見えた。
「!!」
先ほどまで部屋だと思っていたそこは実は庭園を囲む
皇帝とその周辺の人々は大グナエウシアの名を告げる声で気づいていたのだろう、全員が大グナエウシアの方に注目していた。
「まあ、あれが?」
誰か女性の驚く声がわずかに聞こえる。皇帝を取り巻く誰かだろう。おそらく、初めて見たコボルトの姿に驚いたに違いない。
帝都レーマでコボルトの姿を目にすることは少ない。ハーフとはいえコボルトと同じ見た目をした貴族は大グナエウシアが二人目であり、現在他にレーマにいるコボルトあるいはハーフコボルトといえばアルトリウシア子爵家に仕える者たちに限られている。
『
はぁ……またか……
それでも皇帝の前ならば
それでも気を取り直し、背筋を伸ばしたままスルスルと前へ足を運ぶ。タネからみっちり仕込まれた「
好機の視線を屈辱に感じないではいられない大グナエウシアではあったが、しかし彼女の姿は彼女自身が自覚している以上に見る者に好印象を与えるものだった。
もちろん、かつてコボルトが亜人ではなく獣人に分類されそうになった原因の一つである全身を覆う体毛、そしてホブゴブリンやコボルトに特徴的なガッシリとした筋肉が
しかし非常に細く短く密集した体毛は、同じく全身を体毛に覆われた獣人たちに比べるとずっと繊細でキメが細かいため、獣人のような荒々しさは全く感じさせない。
それを流行に合わせるように明るい黄色い布地に金糸で刺繍を施した
屋内であるためにパルラを脱いで露わにされていた髪は高貴な身分にふさわしく前髪を高く結い上げてはいたが、後ろ髪は未婚であることを示すために長く垂らし、その髪型を抑えるように細い金細工の
まさにレーマ人が理想とするアエネイスの輝き、花の女神フローラの色鮮やかさ、神々の女王ユノーの美しい肉体を強調する衣を具現化した衣装と言えるだろう。しかし、同じ服を大グナエウシア以外の者が纏ったとしてもこうはなるまい。レーマに百万の人がいようとも、この着こなしができるのは大グナエウシア只一人……皇帝マメルクスをして後にそう言わしめるほどのものだった。
大グナエウシアはマメルクスの前まで進み出ると両手を交差させながら胸に当て、
「
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