第1355話 女奴隷のリスク
統一歴九十九年五月十二日・朝 ‐
「ええ!?」
リュキスカは思わぬ方向からの情報に一瞬
ロムルスは卑屈なところのある男だ。他人の、特に偉そうな人物の醜聞を好む類の人間である。
リュキスカもロムルスの軽薄な性格には気づいていた。だからこそ嫌悪もしていたし、普段からあまり近づかないようにもしている。当然、ロムルスの言うことなど軽々しく信用しようとは思わない。
「それホントかい?
なんでネロさんが反対してんのさ!?」
ロムルスの顔が卑屈な笑みにいやらしく歪む。
「それが
あの野郎、
「
リュキスカが不快そうに尋ね返した。
「
もしかしたら
言いながらロムルスは腹を抑え、痙攣でもするように身体を震わせ始めた。笑いを堪えているのだ。だがリュキスカからすれば冗談ではない。
「な、何でアタイが
リュキスカの声には怯えの色が滲んでいた。その声に気づいてリュキスカの表情を見たロムルスは、まるで通じなかった冗談を弁明するように宥める。
「そんなわきゃありやせんや!
なのにネロの奴ぁ
ロムルスが同意を求めるようにリュウイチを見ると、リュウイチは静かに睨んでいた。
もういい、お前はもう黙れ……リュウイチの静かな意志をその視線から感じたロムルスは一瞬で固まってしまう。
「し、失礼しました!!」
ロムルスはひっくり返った声でそれだけ叫ぶように言うと、気を付けして出入り口の番に戻った。リュキスカはロムルスのその様子を唖然としたまま眺めていたが、リュウイチの溜息が聞こえると我に返り、リュウイチの方へ向き直る。
「で、さっきの話、どうなの?」
リュウイチはリュキスカの視線から逃れようとするかのように顔を逸らし、改めて大きな溜息をついてから答えた。
『伯爵が君を傷つけようとしているってことは無いから安心していい』
そこまで言ってリュウイチはリュキスカに向き直り、続ける。
『ただ、君の下で働いて得た情報を伯爵に報告するってことはあると思う』
リュウイチの返事を聞いたリュキスカは特に表情も変えず、そのまま鼻から大きく息を吸い込みながら上体を伸びあがらせた。
「じゃ、じゃあ何?
この話、断った方がいいの?」
『いや……それは君次第だ』
リュウイチがまた目を逸らせて答えるとリュキスカは顔を
「何でさ、その
そう尋ねるリュキスカは少し不機嫌そうだった。実際のところ、リュウイチの言い様はリュキスカには理解しにくいのだろう。リュウイチは困ったとでも言うように俯き、束の間、少し身を屈めてから顔を上げてリュキスカを見た。
『何をどこまで伯爵に報告するか……それはある程度制限できると思う』
「そんなの分かんないじゃないさ!
その
アタイがこれは言っていいけどこれはダメとか言ったって、
リュキスカは声を張った。リュウイチが得にもならないのに一方的なリスクを自分に押し付けようとしているとしか思えなかったからだ。自分の身の回りのことを外へバラすような者を、何で身近に置かねばならないのか!? リュキスカは理不尽を黙って受け入れるような素直さは無い。「
そして今、リュキスカに理不尽を押し付けようとするリュウイチはリュキスカの牙に
『そうでもないと思うよ』
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