第875話 収容
統一歴九十九年五月九日、夜 ‐
三人の視線の先には魔法の
しかし、リウィウスとヨウィアヌスの二人はカルスほどは驚かなかったし
「なるほどコイツがインプかぁ……」
「俺ぁ初めて見たぜ、
「俺も初めてだぁ、話には聞いたことあったがなぁ……」
「俺もだ。ホントに居んだなぁ……」
二人があまりにも平然としているのでカルスは逆に驚いた。これではまるで自分が馬鹿か臆病者みたいで急に恥ずかしくなる。
「な、なんだよ二人とも!
こ、怖くないのかよ!?」
まるで悪戯でもされた被害者のように
「何だぁ~カルスぅ、こんな
「ち、
涙目で反論するカルスを
クソッ、ヨウィアヌスの奴、馬鹿にして!!
「その辺にしとけ二人とも、俺たちゃ遊びに来たんじゃねぇんだ。」
リウィウスはそう言って背後の二人を静かにさせると、腰のベルトに下げていた小剣を鞘から引き抜いてインプに突きつけた。インプはこれまで以上にシーシーと激しく警戒音を鳴らし身を固くするが、何せ
インプが身動きできないことを承知の上で、リウィウスは小剣を突き付けたままインプを覗き込むようにしゃがみ込む。
「おぅインプさんよ、お
《
話せるんなら言葉を使いな、さもなきゃ首を縦か横に振って返事をすんだ。
返事次第でこの荊を解いてやってもいいぜ。
いいか?」
リウィウスがそう話しかけると、シーシーと激しく警戒音を出して威嚇していたインプはリウィウスとリウィウスの小剣を交互に見比べ、それから
「ようし、俺たちゃルクレティア・スパルタカシア様の
そう名乗りを上げるとインプは赤く光る眼を皿のように見開いた。
「りゅ、りゅくえっしゃ、ひゅぱぅたくしゃ」
「そうだ、ルクエティア・スパルタカシア様だ。
お
どうやら話が通じるらしいことに確信を得たリウィウスはわずかに口角を持ち上げてニヤリと笑うと、突き付けていた小剣を引っ込めた。
「お
大人しくするってぇえんなら、案内してやる。」
インプは警戒音を出すのを止めてはいたが、見開いていた目を細めてジッとリウィウスを見上げている。リウィウスは話が通じているものと思い、手に持ったままの小剣をぶら下げるように切っ先を地面に向け、そのまま話を続けた。
「俺たちと一緒に来い。そんで、一緒に
ただ、途中人目についちゃ困るんでな。
ヨウィアヌスの持ってきた
リウィウスがそう言うとリウィウスの斜め後ろに立っていたヨウィアヌスは腰に下げていた
だが見ず知らずの人間にいきなりコレに入れと言われて納得するはずもない。インプは何か疑わしそうな目でその籠とヨウィアヌスの顔を、そしてリウィウスの顔を見比べた。
「いいか?
そんなところへお
どうやら疑われているらしいと気づいたリウィウスが泣き言でも言うように説明したが、インプは納得するどころか疑惑を深めたかのようにジトッとした視線をリウィウスへ向けた。安易な泣き落としが通用しないと悟ったリウィウスは方法を変えることにした。手に持っていた小剣をインプに突きつける。
「俺たちとしちゃあ、今この場でお
そっちの方がいいのか?」
ホブゴブリンのドスの利いた声にビビったのだろう。インプは赤い目を最大限に見開き、ブルブルブルッと激しく首を左右に振る。
「じゃあ、大人しく着いて来るんだな?」
インプは今度は首を縦に二回、大きく振った。どうやら完全に話は通じたようである。リウィウスは溜息交じりに「最初っから言うこと聞いとけ」とボヤくと、突き付けていた小剣でインプを拘束している魔法の荊を切ったのだった。
「キシッ、キシシシ~~~ッ!!」
ようやく戒めから解放されたインプは両腕を左右に広げ、丸めていた背中を反らせて伸びをしながら背中の羽根を大きく広げ、バタバタと羽ばたく。するとすかさずリウィウスが小剣を突き出した。その勢いがあまりにも早かったため、インプは驚いて目を丸くし、思わずその場に尻もちをついてしまう。
「オイ、逃げようとしやがったらコイツでスパッと行くぜ!?」
そう言いながらリウィウスが突き出した小剣をわずかに
「コイツぁそこらの
ほんのひと撫ででお
インプの鼻先にまで突き付けられたそれをリウィウス本人は「
インプは鼻先に突きつけられた切っ先の鋭さにゴクリと喉を鳴らし、伸びをする時ですら小脇に抱えたまま離さなかった手紙を改めて両手でギュッと抱きしめる。
「よーし、逃げようなんてしてくれるなよ?
俺らも出来りゃあ
リウィウスが小剣を少し引っ込めると、インプはブンッと音でもなりそうな勢いで一度大きく頷き、それから少し間をおいてブンブンと二度繰り返して頷いた。
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