第485話 捕虜の証言
統一歴九十九年五月六日、午前 -
捕えた『
それはサウマンディアにとって決して良い決断とは言えなかった。本件に関して言えばアルビオンニア側に対して既に大きな借りが出来ている。これ以上借りを増やすのは好ましいものではない。仮にメークミーが反抗の意思を明確にしたとして、ルクレティアの力を借りなければならなくなるとしても、そうなるギリギリまでは何とか自分たちで対処せねばならない。
第一、ルクレティアはリュウイチの待つアルトリウシアへ帰らねばならない身だ。ルクレティアの最大の任務は
『勇者団』は確かに脅威ではあるが、《
今、《
ゆえに、先ほどの
それにしても
食後、
スカエウァ・スパルタカシウス・プルケル…スパルタカシウス・プルケル家の三男でルクレティアの従兄にあたる。リュウイチの降臨がなければ、ルクレティアが成人するのを待ってルクレティアの夫として、スパルタカシウス宗家に婿養子に入る予定だった男だ。しかし、先月リュウイチが降臨し、ルクレティアがリュウイチの正式な
だが、ルクレティアが聖女になったことでスパルタカシウス宗家は跡取りが居なくなった状態であることには変わりがない。正式な発表こそまだ無いが、スカエウァがスパルタカシウス宗家に養子に出されることはほぼ決まっているし、昨夜の祭祀もルクレティアの代わりにスカエウァによって執り行われている。
スカエウァを同席させたのは失敗だったか…いや、もう少し口に気を付けるべきだったな…
今更ながらカエソーは頭を掻き、
「
昨夜は随分と遅くなってしまった。眠れた時間はニ時間なかったかもしれない。戦闘後の後始末やメークミーの尋問、裏から侵入したファドに関する調査などなど色々とあったのだ。カエソーもマルクスも、そしてそこで合流したセプティミウスも、仕事が無ければすぐにでもベッドへ戻って寝てしまいたいと思っている。その彼らにとって、イェルナクの嬉々とした笑顔はむしろ憂鬱を誘うには十分なものだった。
何でコイツはこんなに元気なんだ?
とはいえ、それをいちいち表に出していては貴族社会で生きてはいけない。たとえそれが
「
お元気そうで何よりだ。見せたいものがあるとのことだったが、何かね?」
カエソーは寝不足による頭痛を意識しながらも平静を装って挨拶を返した。
「皆様、昨夜のお疲れがまだ残っておられるところをわざわざお呼びだてして申し訳ありません。
ですが、きわめて重大な事実が明らかになったのです!
私はこの重大な事実について皆様に御報告する責任の大きさと、それを果たすことの名誉と喜びとをかみしめております。」
イェルナクは大道芸人もかくやという大仰な身振りを交え、いつものように大袈裟にのたまった。
「イェルナク殿、貴殿が気遣ってくだされたように我々もあまり時間が無い。できれば手短にお願いしたいのだが?」
「もちろんでございます。
見せたいというモノは表の
「厩舎?
何でそんなところに?」
「イェルナク殿、いったい何を見せようと言うのか知らないが、我々も暇ではないのだ。」
「左様、昨夜の戦闘の後始末はまだ終わっておらぬ。
我々はそれを片付けねばならぬのだ。」
軍人たちが軒並み不快感をあらわにするとイェルナクは慌て始めた。
「いや、いやいや、お待ちください!お待ちください!
これは我々の未来に重大な影響を及ぼすこと間違いなしなのです!!
我々だけではない
「世界の命運!?」
「随分と大きく出たようですが、そのようなものが厩舎に納まりますかな?」
マルクスとセプティミウスが半ば挑発するように言うと、イェルナクは笑顔を引きつらせながらも屈辱に堪えてみせた。
「お疑いなのは致し方ありません。
では、先にこちらの調書をお読みください。」
そう言ってイェルナクは脇に控えていた従兵から数枚の
「調書だと?」
「左様ですとも。昨夜捕えた盗賊を尋問した結果得られた重大な情報をまとめたものでございます。」
通常は捕虜の尋問した結果などは羊皮紙なんかには書かない。勿体なさすぎるからだ。それをあえて羊皮紙に書き込んでいるということは、これを正式な報告書として提出するつもりであるということだった。
うさんくさそうに羊皮紙に目を通すカエソーと、それを脇から覗き込むマルクスたちにイェルナクは下から上目遣いで見上げながら続けて言った。
「昨夜の盗賊たち、実は背後にメルクリウス団が控えていたのです。
彼らは約十人ほどのメルクリウス団によって強制的に集められ、ここ数日の凶行を強要されておりました。
そして、その目的は何とココ!このケレース神殿で再び降臨を引き起こすことだったのです!!
そのために盗賊たちを使い、我々をココから追い出そうと画策していました。
私はこの事実を伯爵に御報告申し上げ、メルクリウス団捕縛のために一大作戦を遂行していただくべく、進言申し上げるつもりでおります。
その際は、我が
イェルナクの演説を聞いたカエソーたちは頭痛が酷くなるのを感じ、頭に手を当てた。
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