奴隷たちの独走
第1381話 要塞司令部に来たゴルディアヌス
統一歴九十九年五月十二日・午前 ‐
報告会に出席するために
今は報告会が開かれる前、リュキスカはリュウイチと共に控室にいるのでオトはすることがない。別に控室で一緒に待っていてもいいのだが、リュウイチは一人で育児介助を任せられているオトに負担が集中していることを気にしており、たとえこまめにでもなるべくオトには休憩を取らせるようにしていた。
しかし、自由に過ごせるようにと控室から退室させられたはいいものの、かといってオトがリラックスできる場所がこの要塞司令部にあるかというと全く無い。
参ったな……どうせ会議が始まる前には戻んなきゃいけねぇから遠くまでは行けねぇし……
廊下に出て周りを見回すが、オトは自分が酷く場違いなところで浮いているのを自覚せざるを得なかった。もっとも、それは彼の主観であって周囲の目にはまた見え方が違う。確かにオトは浮いて見えているが、それは彼が身分卑しい奴隷だからではなく、そこらの
そういうわけだからオトが将校たちが休憩している場所に入り込んだとしても、おそらく誰も
さてどうするか、一階に降りてホールでも眺めてくるか……
要塞司令部の一階、玄関ホールをくぐると巨大なホールがあり、そこには
オトのような一兵卒にとっては笑ってしまうような馬鹿げた話だが、しかし今や
が、オトはすぐに諦めた。先ほどから廊下を行きかう人々から自分に向けられる視線……最初、奴隷の自分が場違いなところにいるせいだと思っていたが、彼らの興味の対象が自分ではなく自分が着ている服らしいことに気づいたからだ。
さすがにコレ着たまま行くわけにはいかねぇか……
オトはもちろんリュウイチから貰った上等な服を着ている。通りすがりの下級貴族が思わず目を奪われるレベルの服だ。それを着て一階に降りればそこにいる人々の視線を独り占めすることになってしまうに違いない。そして要塞司令部の一階には軍人のみならず多数の一般人も多数出入りするのだ。
もちろんオトにもこんな上等な服を着ていることを自慢したい気持ちがないわけではない。陣営本部の向かいに開設された酒保には、オトだってワザと目立つように出かけて、
うん、また今度にしよう……
オトがそう諦め、じゃあどうしようかと悩み始めた時、オトと同じように目立つ格好をして階段を昇って来る酷く場違いな男の姿が目に入った。
何やってんだアイツ?
男は階段を昇り切ったところで不安そうに周囲を見回していたが、オトの姿を見つけるとパァっと表情を明るくして手を振り駆け寄ってきた。
「おぉ! 見つけたぜオト!!」
「何やってんだゴルディアヌス!
ここは走るの禁止だぞ!?」
いい歳して相変わらず子供のような同輩にオトは呆れた。
「細けぇこと言うなよ、俺ぁこんなトコ初めてなんだ」
ゴルディアヌスは喧嘩っ早く豪快な男だが、意外と周囲の目を気にする繊細なところもあったりする。自分が信奉する“男らしさ”が通用するところでは自信たっぷりだし、むしろ横柄なくらいに調子に乗るのだが、逆に自分が知っている“男らしさ”の通用しないところでは何をどうしていいか分からず不安になって急に大人しくなってしまうのだ。ゴルディアヌスにとって要塞司令部はそういう“男らしさ”の通用しない場所の象徴みたいなところであり、そうだからこそゴルディアヌスにとって要塞司令部は要塞内で一番苦手な建物だった。リュウイチと共に軟禁状態に置かれている彼らにとって外に出かけるのはそれだけで一種の喜びなのだが、それでもゴルディアヌスは要塞司令部にだけは行こうとはしない……それほど苦手としている。にもかかわらずゴルディアヌスがわざわざ要塞司令部に一人で来たということは、オトにとって非常に珍しい事だった。
「だろうな、お前がこんなところに来るなんて信じられんよ。
で、何か用なのか?」
「用が無けりゃこんなとこ来るもんか!
お前さんを探してたのさオト」
「俺を!?」
オトとゴルディアヌスは別に仲が悪いわけではないが、だからといって親密というわけでもない。もちろん軍隊時代は同じ
「ああ、ホントは
ちょっとここじゃ何なんだが、どこか人の耳を気にしなくていいとこ無いか?」
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