第411話 広がりはじめた戦火
統一歴九十九年五月五日、晩 -
小高い丘の上に建つ
その参道付近から見渡すアルビオンニウム市街地は既に日が落ちたこともあって、赤く燃える空とは対照的にまるでインクでもぶちまけたかのような暗闇に閉ざされ、わずかに廃墟の一部が光を反射する程度であったのだが、南の宮殿跡の手前の一帯だけは往年の繁華街さえ影をひそめるほどの
「はじまったようだな…」
ポツポツと見える赤い炎と、それに照らされた煙によって
先ほど駆け込んできた伝令によって
あの位置の火災が燃え広がったとしても風向きからして
「どんな様子だ?」
火災が広がり始めた廃墟を見下ろす護衛隊長セルウィウス・カウデクスの背後から声をかけてきたのは、
「ハッ、賊は予め放火の用意をしていたようであります。
見ていたところ、小規模な火災が短時間で広範囲に一挙に広がりました。」
セルウィウスは姿勢を正して報告する。そして
「
火災は東の方から西へ向かって連続して発生しました。
おそらく賊の指揮をとっている奴が東側にいて、放火を命じる伝令が東から西へ走ったのでしょう。
しかし、
セルウィウスの説明を聞き、セプティミウスは小さく呻った。
「うぅ~む、想定していたよりだいぶ西で
敵中央軍はそのまま南からこっちへ攻めて来るものと思っていたが、ひょっとして左翼軍(西側の部隊)に合流するつもりだったのか?」
「西、南、南東の三方向からではなく、西と南東の二方向から攻めて来るつもりだったという事ですか?」
《
ピクトル・ピトー率いる
「その割には火の手の上がり方が早すぎますな。
廃墟の建物に松明で火を放ったところで、短時間でああも燃え広がることはありません。おそらく、
セプティミウスたちの話に割り込んだのはイェルナクだった。つい先月、失敗したとはいえアルトリウシアを火の海にする計画を立てて実行しただけあって、
「ということは、賊は最初から火を放つつもりだったということですかな、イェルナク殿?」
「賊が何をするつもりかまでは分かりませんが、火の燃え広がり方からすると、そうであろうと推察する次第であります。
「火を放つつもりでいたというのなら、何故あの辺りなのか
イェルナクは先ほどの軍議には途中から参加している。彼は
北から攻めて来るであろう『
今夜の風向きは北寄りの西風で、火が燃え広がったとしても
「強いて理由を探すのであれば、分断しようとしたのかもしれませんな。」
イェルナクは少し考えてから、何かを思い出したように言った。
「分断!?」
「本当はもっと西から火を点けるつもりだったのかもしれません。
しかし、準備を整える前に
だとすれば宮殿跡にいる部隊と、ここにいる部隊を炎の壁で遮るつもりだったのでしょう。」
それはあの日、
「もっと西から放火できていれば、宮殿跡にいる部隊はコッチに合流できなくなり、またコッチもアッチに合流できなくなります。
それどころか、人手を割いて消火に当たらねば、《
あるいは、逃げる際に放火して追撃の手を逃れようとしたのかもしれませんが。
そういえば、宮殿跡から駆け付けることになっていた
イェルナクの質問を受け、セプティミウスとカエソー、マルクスらは顔を見合わせると、カエソーが代表して答えた。
「残念ながら貴殿の予想した通り、分断されてしまったようだな。
まだ到着しておらん。」
「しかし、ここには四個
仮に
余裕をもって撃退できましょうぞ?」
カエソーに続いてマルクスが楽観的に言うと、イェルナクは機嫌よさそうに胸を張った。
「なんとも力強い御言葉、このイェルナクも緊張がほぐれました。
願わくば、我が
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