第509話 メークミーの移送方法
統一歴九十九年五月六日、晩 -
セプティミウス・アヴァロニウス・レピドゥスの主張は何も間違っていなかった。ルクレティア・スパルタカシア・リュウイチアはまずもってリュウイチの傍で仕え、リュウイチが暴走したり
確かに『
ルクレティアは自分の呼びかけに『勇者団』が応じたことに責任を感じていたが、その責任はリュウイチに仕える責務と比べられるようなモノでもない。また、ルクレティアが自ら『勇者団』との会見に臨もうとするのは《
これまではまだ、「『勇者団』の方から攻撃をしかけてきたので聖女ルクレティアの身を護るため仕方なく《地の精霊》が力を行使した」という言い訳が辛うじて通用する範囲ではあったが、《地の精霊》が力を行使することを前提にこちらから『勇者団』の方へ出向くとなれば話は別である。それでは《地の精霊》の力を利用する意図があったことは明らかであり、降臨者の力を利用することになる。すなわちそれは大協約が禁じる「《レアル》の
かくして、ルクレティアによって『勇者団』との交渉の場を設けるという思惑は頓挫せざるを得なかった。
ルクレティアは明日、予定通りアルビオンニウムを発ってアルトリウシアへ帰ることになる。これには緊急会議の最中に駆け込んできた早馬の
早馬は
彼は十分な数の荷車を用意できなかった。シュバルツゼーブルグからアルビオンニウムまでの
このためアロイス率いる討伐隊はブルグトアドルフまでしか進出できない。サウマンディアから船便で補給を受けられるならアルビオンニウムまで進出することも可能だったが、さすがにそのための調整をサウマンディアとするだけの時間はなかったのだ。
結果、ルクレティアとその護衛部隊はブルグトアドルフでアロイスと合流することとなったのだった。
ルクレティアがいなくなれば、実質サウマンディア軍団だけでこのアルビオンニウムを守らねばならなくなる。
サウマンディア軍団だけで『勇者団』を防ぐことが可能だろうか?
おそらく可能だろう…少なくとも軍人たちはそう考えていた。
まだ二個
現在、『勇者団』が集めた盗賊団は兵力をほぼ半減させているはずであり、推定総兵力は二百程度と見積もられている。対してこちらは当初神殿を防衛していた二個百人隊に
アルトリウシア軍団はルクレティアと共にアルトリウシアへ帰る予定ではあるが、セプティミウス本人と一個百人隊は当初の予定通りこのままアルビオンニウムに残ることになっているので、昨夜の戦死者を考えてもざっと七百五十人。防衛兵力と盗賊団の兵力差は四倍近い。
『勇者団』そのものの戦力がどの程度かは不明だが、盗賊団三百を戦力に加えて二個百人隊を攻略するつもりだったこと、そして仮に彼らが攻者三倍の法則(戦闘において有効な攻撃を行うためには、攻撃側は守備側の三倍の戦力を必要とするという考え)を知っていたと仮定するならば、彼らは自分たちの戦力を少なくとも三~四個百人隊程度に相当すると自己評価していたと推定できる。その評価が妥当かどうかは不明だが、仮に妥当だと仮定して考えてみた場合、神殿を守ろうと思えば現有戦力で『勇者団』を防ぐことは十分に可能だ。ルクレティアが帰還したあとも、こちらは敵の二倍近い戦力を確保できていることになるのだから。
しかし、拠点防衛のみならず要人警護もとなると話は別である。現に昨夜も『勇者団』はこちらの全兵力を盗賊団による陽動で引っ張り出しながら、背後からファドという暗殺者をルクレティアのもとまで送り込んできたのだ。ルクレティアがいなければ間違いなくヴァナディーズは殺されていたに違いない。
ヴァナディーズとメークミー、この二人は『勇者団』の手の届かないサウマンディウムへ送ってしまう方が安全だ。少なくともルクレティアのいなくなったアルビオンニウムに留め置くことはできない。
だが今度はサウマンディウムへどう送るかが問題になった。明朝、サウマンディウムへ向けて出港できる船が一隻しかなかったのである。港には他にも船はあるが、それらは今日サウマンディウムから資材を運び込んだ船であり、荷下ろしが済んでなかった。二人をサウマンディウムへ送るとなれば一隻に船に乗せるしかないのだが、ヴァナディーズがそれを頑なに拒んでいるのだ。
「ルクレティア様、なんとかヴァナディーズ女史を説得できないのですか?」
「待たれよアヴァロニウス・レピドゥス殿!
ヴァナディーズ女史がサンドウィッチ様との同乗を拒む理由は至極当然のものだ。ヴァナディーズ女史本人が同意したとしても、暗殺の懸念が払拭されない以上は同じ船に乗せるわけにはいかん。」
セプティミウスの要請をカエソー・ウァレリウス・サウマンディウス伯爵公子が横から口を挟んで止めさせる。
ヴァナディーズ一人が嫌がっているだけなら強引に乗せてしまうこともできなくはなかったが、カエソーもまたメークミーの気が変わってヴァナディーズが殺されることを懸念していたため、それも出来ない状態になってしまったのだ。
「ではどうするのです!?
サンドウィッチ様を一日、ここに留め置くつもりですか!?」
セプティミウスはうんざりしたような様子を滲ませ、わずかに眉を
そんなことは論外である。それはメークミーをみすみす『勇者団』に取り戻させてやるようなものだ。メークミーをサウマンディウムへ送り出すためには、明朝ルクレティアたちがアルビオンニウムを発つ前にヴァナディーズと同じ船に乗せてしまうほかないのである。
だがカエソーは意固地になっていた。自分で『勇者団』を説得して事件を収束させる機会を奪われたことが面白くないのだ。
「いや、それは出来ん。」
「じゃあ船に乗せるしかないではありませんか!」
セプティミウスの言っていることは正しい。遵法精神にも
カエソーは少し意固地になりすぎている自分に気付きつつあったが、もう止まらなかった。もしかしたら、先ほどの
セプティミウスの顔を無言のままジッと見たままカエソーは数秒考え、そしておもむろに口を開いた。
「いや、もう一つ方法がある。」
「何です?」
「ルクレティア様と御一緒にアルトリウシアへ送り、そこから船でサウマンディウムへ送る。」
「何ですと!?」
「「「「「!?」」」」」
これにはセプティミウスのみならず、同席していた全員が驚いた。この場におけるサウマンディア軍団のナンバー2の地位にある
「お、お待ちください閣下!
せっかく捕えた捕虜を、ルクレティア様にお預けするのですか!?」
それはただでさえアルビオンニア側に作っている“借り”を更に大きくしてしまう事を意味した。同時に、昨夜のカエソーの功績を、そしてサウマンディア軍団の軍功を台無しにしてしまうことにもなりかねない。
「いや、ルクレティア様と同行するだけだ。
サンドウィッチ様の身柄をお預けするわけではない。」
「そうは言ってもルクレティア様以外に誰がサンドウィッチ様の身柄を誰が管理するのです!?」
「まさか!?」
困惑を隠せないピクトルに対し、セプティミウスはカエソーの意図にいち早く気付いたようだった。セプティミウスのその表情を見て満足したのだろうか、カエソーは口角を持ち上げて言った。
「私も同行する。
私がアルトリウシア経由で連行する!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます