精霊と妖精と盗賊たち
第975話 盗賊と悪魔
統一歴九十九年五月十日、未明 ‐ ブルグトアドルフ近郊/アルビオンニウム
トチ狂った貴族のボンボンが御自慢の
「ヴルルルルルル……」
視力が回復しない彼らの目の前で、空から舞い降りた……いや、降ってきたと言った方が正確かもしれない……巨大な悪魔がそこで唸り声を発している。しかし、盗賊たちは
「ヴヴ……ヴァラヴァラヴァラヴァラ……
やれやれ、ようやく捕まったようですな。
終わってみれば案外
しかし大事なところで仲間割れとは、人間とはまったく愚かしい。」
叩き潰した獲物……ペイトウィン・ホエールキングを確認したのだろう、グルグリウスはひとしきり笑うと呆れたように
満足しきれてねぇってことは……
グルグリウスの魔の手が
「お、おおおっ!?」
「
盗賊二人が悲鳴に近い
「よせ、やめろ!!」
クレーエの制止も虚しく、
「ヴフゥゥゥ……」
グルグリウスは不満げな吐息を漏らすとともにゆっくりと首だけ回して背後を振り返り、銃口から硝煙のあがる銃を持った盗賊たちを確認するとおもむろに尻尾をブンッと一振りする。
「ゲヘッ!?」
「ブフッ!」
大樽ほども太さのある岩の尻尾の一薙ぎで盗賊たちは軽々と吹き飛ばされてしまった。
「ヤベェ……」
「ヴフフフフフッ」
レルヒェが表情を硬直させたまま
次は俺らか!?
生き残った盗賊は三人、クレーエ、レルヒェ、そしてエンテはそれぞれ死を予感した。が、三人の反応は三者三様だった。クレーエは状況把握と打開策に頭を回し、レルヒェはただ圧倒されて
「ひあああぁぁぁあぁぁぁぁあ!!」
声をひっくり返させ、情けない悲鳴を上げながらクレーエたちの方へ駆け付け、そして滑り込むようにクレーエたちの背後に回り込んだ。
この馬鹿!三人まとまっちまったら良い
だがクレーエがエンテを叱り飛ばすより前にグルグリウスの重々しい足音が彼らの
「ヴルルルルル……
残りはあなた方だけのようですねぇ?」
まるで
「どうやらそのようだな。
それで、俺たちも取って食おうってのか!?」
虚勢を張るクレーエの手には《
ヴルルルル……あの
三人とも……いや、気を失ったままのエイーを含めれば四人か……一思いにまとめて殺してしまってもグルグリウスとしては全然かまわないのだが、クレーエが持っている杖から感じられる魔力は覚えのあるものだった。グルグリウスの今の主人である《
だが、目の前に居るのは盗賊である。《地の精霊》に連なる者の加護を受けた者から、奪い取られた杖である可能性も否定できない。
「さて、
邪魔さえしなければ
グルグリウスはボロ雑巾のようになったペイトウィンを持ち上げて見せた。その拍子にブプッと音を立ててペイトウィンの口と鼻から血が噴きこぼれる。
ありゃあ……不味いな。見たところ致命傷だ。
「どうかなっ!?」
クレーエは胸を張り、両手をパッと広げて「冗談だろ?」とジェスチャーで示した。
「
クレーエはペイトウィンを見捨て、自分たちが助かる
だいたいクレーエたちにグルグリウスをどうにか出来るわけもない。
「ヴルルルルル……」
クレーエの返事を聞いたグルグリウスは不審げに唸り声を上げながら身を起こした。そしてしばらくクレーエたちを見下ろしたまま考える。
たしかに、グルグリウスはゴーレムたちの目を通してペイトウィンと盗賊たちが何か言い争っているのを見ていた。馬鹿げた仲間割れだった。
グルグリウスの見立てではクレーエは勇者である。無力なくせにグルグリウスとグルグリウスが操るゴーレムたちに立ち向かい、一瞬の隙を作ってゴーレムの包囲網の中からエイーとペイトウィンを救い出してみせた。あれは決して無謀でもなく、蛮勇でもなく、知恵と勇気の行動だった。ではそのクレーエがここであっさりペイトウィンを見捨てるものなのだろうか?グルグリウスはそれが
「ではアナタ方の“お仲間”はどうなのです?
クレーエはグルグリウスに向けていた視線を
「あ、生憎と、あいつらは別に“仲間”じゃねぇんだ。
アイツ等は“グリレ”で俺らは“リベレ”なんでね。」
「
意味が分からず顔を
「盗賊団の名さ。
アイツ等は“グリレ”って呼ばれる盗賊団で、俺らは“リベレ”ってぇんだ。
元々、あいつ等と俺らは別の盗賊団だったんだ。
仇を討つつもりはない。これで手打ちにしよう……クレーエとしては一刻も早く事態を終結させたい一心だったが、グルグリウスの目にはそう言う風には見えなかった。
仕方なしに一緒に行動していたとはいえ、同じ目的で行動を共にしていたのならそれはそれで“仲間”として助け合うべき存在なのではないのか?それをあっさりと見捨て、一矢も報いようとしない。
グルグリウスの頭の中では、クレーエに対する評価が急速に下がっていった。
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