新たな体制
第243話 奇策
統一歴九十九年四月二十日、午後 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
アルトリウシア子爵ルキウス・アヴァロニウス・アルトリウシウスは養子であり子爵公子のアルトリウスから交渉が予定通り進み物資の積み込みを開始したとの報告を早馬を通じて受けると、早速
ひとまず、リュウイチ自身に早急に今の状況を説明しておきたいが、
かといって事が事だけに配下の誰かを
クィントゥスが直卒する護衛部隊に守られながらマニウス要塞に入った馬車は、
ルキウスは馬車を降りる際、同乗していた(正確には便乗させてもらっていた)ラーウスに同席するよう求めた。
「さて、リュウイチ様に目通り願うか…
「よろこんで。」
今日は雨は降っておらず、空を覆う雲も薄いため日は明るく、地面にはぼんやりだが影が出来ている。北寄りの暖かな風が穏やかに吹いていて秋のアルトリウシアでは割と心地よい天気ではあったが、ルキウスたちはさほど待たされることもなく奥の
リュウイチにはルキウスが概況を説明し、詳細をラーウスが補足するという形で現状の報告がなされた。
「というわけで、ひとまず今日のところは二日分の食料を渡して帰ってもらいます。おそらく、すでにセーヘイムから出港しているでしょう。
これは彼らの乗って来た船にはその程度しか積み込めないという事情もありますが、不必要に多くの物資を渡すことで彼らに行動の自由を与えるのを避けるためでもあります。
当面はそれで時間を稼ぎつつ、人質奪還を狙います。
ただ、申し上げましたようにハン族はリュウイチ様の存在には気づいており、それを突破口に生き残りの途を探っている節があります。リュウイチ様にはご不便をおかけしますが、当面は秘匿体制を強化せねばなりません。」
ラーウスは
『で、
「無いようにする予定ではおります。
ただ、御身辺の警備が強化されるやもしれませんな。
また、我々がこうして会う機会も減らさざるを得なくなるかもしれません。」
リュウイチの質問にルキウスが残念そうに答えた。
『と言いますと?』
「現在は気づかれている兆候はありませんが、我々がこうして
今は復旧復興事業の指揮と言う名目で
リュウイチとしては未だに落ち着かない
『侯爵夫人のご家族と言えば、御子息のカール君でしたっけ?』
「はい、それが何か?」
『人づてに聞いたのですが、体調が思わしくないそうですね?』
リュウイチはエルネスティーネ本人からは病弱だという話は聞いていた。だが体質や具体的な内容などは聞かされてなかったので、特に気にも留めていなかった。リュキスカから実は肌が真っ白で日光を浴びると焼けただれてしまい、昔は悪魔憑きの噂もあったとか、近年では身体が弱くなって立って歩くことすらできなくなっているらしいとか、アルトリウシアの庶民の間で広まっている話を聞かされた。
肌が白くて日光で火傷するって、要するにアルビノだよな?もしかして、光属性ダメージ無効化とか光属性対策で何とかなるんじゃね?
話を聞いたリュウイチの最初の感想はそれだった。光属性ダメージ無効化や光耐性強化のマジックアイテムはいくらでもある。体質そのものはどうにもできなくても、普通に生活するようにするくらいはできるんじゃないか。
しかし、ただマジックアイテムを渡したのでは「
「人づて…ええ、実はかなり深刻な容体なのです。」
ルキウスはボヤ騒ぎのあと、植物状態になってしまったカールを想い出した。おそらくリュキスカからそのことを聞いたのだろうと勘違いしていた。実際はリュキスカはそんなことは知らない。
『必ずしも保証できるものではありませんが、たぶん、私ならなんとかできるんじゃないかと思います。』
「まあ、そうでしょうね。ですが・・・」
リュキスカ母子に与えたというエリクサーがあれば、カールを植物状態から回復させることは容易だろう。ルキウスもラーウスもそれくらいは分かる。エルネスティーネだってわかっているし、それができるくらいならおそらくとっくにお願いしているだろう。
『ええ、「
それを回避する方法を考えてみたのですが…もしダメなら忘れてください。』
「伺いましょう。」
『失礼かもしれませんが、あなた方は今大変お金に困っていらっしゃる。』
ルキウスとラーウスは苦笑し、それを肯定した。
『そこで私はあなた方にお金を貸します。』
ルキウスは微笑んだまま会釈し、感謝を示しながら無言で話の続きを促す。
『しかし、追加で後から後からお貸しする金額が増えて来るし、ここへ来て逃亡したはずの叛乱軍も現れたので私は心配になってきた。本当に返してもらえるんだろうかと…そこで私は担保を要求します。』
リュウイチは微笑を浮かべたままだったが、それを聞くルキウスとラーウスの顔からは見る間に笑みが消えていった。リュウイチから膨大な銀貨を貸してもらえるという約束を取り付けているからこそ、現在の復旧復興事業が推進されている。もし、それを打ち切られるようなことになれば現時点でいくつかの復旧復興事業を停止しなければ、侯爵家も子爵家も資金がショートして経済的に破綻しかねない状況だ。
「担保ですと?」
『そう、カール君の身柄です。』
「そ、それは人質ということですか?!」
ラーウスが顔を青くして腰を浮かさんばかりに身を乗り出した。だが、リュウイチはそれをニコニコと笑ったまま手で制する。
『そうなりますね。そして私は、人質を預かったことで安心してお金が貸せるようになりますし、人質を預かった以上人質に死なれるわけにはいかないので、お金を返してもらえるまでの間、カール君の健康を管理することになります。』
「「・・・・・」」
『これで「
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