第929話 増援到着
統一歴九十九年五月九日、深夜 ‐ ブルグトアドルフ近郊/アルビオンニウム
「無駄なことを!」
グルグリウスは呻くように言うと再び両目をカッ見開き、瞳を赤く光らせる。それを合図にペイトウィンは手に持っていた二本のマジック・スクロールを空中へ投げ、そして叫んだ。
「
エイーとペイトウィンの二人を再び
同時にその頭上ではペイトウィンの投げたスクロールが空中でひらりと舞ったかと思いきや、ひとりでに発火し燃え上がった。炎に包まれたスクロールはまるでマグネシウムの粉末でも包んであったかのように強烈な光を発し、その光が収まった次の瞬間、そこには赤く燃え上がる炎によって形作られた小さな竜……
二体の火炎小竜を従えたペイトウィンが
「ほお……先ほど
「フンッ、当たり前だ!!
《
服に隠れて見えないがペイトウィンは首から
「お前は俺の魔法が自分には効かないと思って勝ち誇っているようだが、お前の魔法だって俺には通じないのさ。
残念だったな、勝負はまだ始まってもいなかったんだ。」
ペイトウィンがそう言うと二体の『火炎小竜』は左右に広がり、赤く強い光を放ちながら一気に加速して間道の両脇を突き進み、そのままグルグリウスの後ろへと回りこんだ。
「ああっ!?」
火炎小竜の通過した付近にあった枯れ草が、『火炎小竜』の発した光を浴びて一気に燃え上がり始めるのを見てグルグリウスは驚き、初めて
「ああ、なんてことを……」
両脇で燃え上がり始める森を見ながらグルグリウスは唖然とした様子で嘆いたが、彼の前ではペイトウィンが次の呪文を唱えていた。
「
投げられた三本のスクロールが燃え上がり、三体の
「エイー!早く行け、森を突っ切って逃げろ!!」
「で、でもホエールキング様!」
「いいからここから離れろ!
じゃないと俺たちの魔法戦に巻き込まれるぞ!?」
離脱し始めたエイーを見送ったペイトウィンがグルグリウスに視線を戻した時、飛び回り森に火を点けて回る『火炎小竜』に気を取られていた隙に爆炎弾の直撃を顔面に食らったグルグリウスは怒りに身を震わせていた。
「まったく……困った御方たちですねぇ……」
周囲で燃え上がる炎と『鬼火』の強烈な光に照らされたグルグリウスは、やはりダメージを受けた様子はない。が、精神的には随分とダメージを受けているようだ。
「戦いには色々あるのさ。
ただの魔力の大小だけで勝負が決まるわけじゃないってことを見せてやる!
ペイトウィンはさらにマジック・スクロールを展開し、風属性の妖精・
召喚された『鎌鼬』は火炎小竜と共にグルグリウスの周りを高速で飛び回り始めた。そして、そこへ『鬼火』が
だがグルグリウス自身は自分にむかって攻撃準備を整える妖精たちを気にする風でもなく、怒りに染まり切った顔でペイトウィンを
「この近くには強力な《
だというのに何度も繰り返し森に火を放ったりして、《
グルグリウスの言葉に一瞬ギクリとしながらもペイトウィンは鼻で笑い飛ばす。
「ヘンッ!
ここが《
だいたい、そんなことお前の知ったことじゃないだろ!?」
警告を無視するペイトウィンにグルグリウスはギリッと歯ぎしりする。
「いいでしょう!
あくまでも穏便に済ませるつもりでしたが、貴方様がそのつもりなら致し方ありません。
唸るようにそう言うとグルグリウスは身を屈め、身体を震わせ始めた。それと同時にグルグリウスの身体が急激に膨らみ始める。バッと背中から巨大な羽根が飛び出し、太い尻尾が生え、身体全体が異形の姿を露わにし始める。身体が大きくなるせいで相対的に急速に縮み続ける地面にバランスを崩し、ドタドタと
「お……あ……あ……デッ、デーモン!?」
ペイトウィンの眼前に露わになったグルグリウスの真の姿……それはかなり上位の悪魔のそれであった。ペイトウィンがグルグリウスが見せた真の姿に圧倒されるのと同時に、北の森から複数の声が響いた。
「う、うおぉぉぉーーーっ!?」
「
「
「
それらはドイツ語だったためにペイトウィンには意味が分からなかった。が、どうやらランツクネヒト族の男たちが複数、森に潜んでいたらしいことは理解した。
盗賊どもか!?
ペイトウィンとグルグリウスは思わず同時に北側の森を見る。燃え上がる炎ごしにではあったが、暗視魔法を使っていたペイトウィンの目には暗い森の中でエイーと盗賊たちが合流しているのが見えた。盗賊たちの指揮を執っているクレーエの姿も見て取れる。
「ルメオの旦那、こっちへ!早く!!
お前ら、ルメオの旦那が連れてる馬どもを預かれ!!
旦那を安全な所へお連れするんだ!!
残りは鉄砲の準備だ!!」
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