第116話 被害と復旧と復興と
統一歴九十九年四月十三日、午後 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
残ったのはアルビオンニア侯爵夫人エルネスティーネ・フォン・アルビオンニア、アルトリウシア子爵ルキウス・アヴァロニウス・アルトリウシウス。
彼らの側近であるアルビオンニア侯爵家筆頭家令ルーベルト・アンブロス、アルビオンニア侯爵領財務官ヴィンフリート・リーツマン、アルトリウシア子爵家筆頭家令ホスティリアヌス・アヴァロニウス・ラテラーヌス、アルトリウシア子爵領財務官ハルサ・カッシウス・フルーギー、同法務官アグリッパ・アルビニウス・キンナ。
アルトリウシア軍団から
いずれも一般庶民が口を利くどころか、直接顔を見る事さえ滅多にないVIP中のVIPたちである。カエソーなどは今回サウマンディア属州領主である父プブリウスの名代を務めており、レーマ帝国の属州が敬典宗教諸国連合の王国一国に相当すると考えれば、国際首脳会議に匹敵する陣容であった。
そして彼らに相対するのは降臨者リュウイチとその世話役を務めている神官のルクレティア・スパルタカシア。
会議室には以上の十三名が残っていた。
会談はルキウス自身の司会進行によって始まった。
まず概況として、アルトリウシアに駐屯していた
その後、ラーウスから現時点で分かっている被害状況ならびに復旧作業状況などが説明される。
そうした一連の報告はまるで
本来、このような事をリュウイチに報告しなければならない理由はない。リュウイチはアルトリウシアの統治にも治安にも何の関係もない、外部のお客さんに過ぎないのだ。
にもかかわらず、このように伝える必要のない情報まで細かく説明しているのは、リュウイチが積極的に関与してくるのを未然に防ぐ狙いがあった。
現在のような状況を隠せるのであれば隠したままにしておくのが良いのだが、その選択肢は最初から無い。
なにせ、リュウイチはアルトリウシアに到着した際にアルトリウシアが炎に包まれている惨状を目の当たりにしているのだ。しかも、逃亡中のハン支援軍から砲撃を受け、その砲弾を頭に受けている。
今更何をごまかせるというのか。
もし、そのような状況を目の当たりにしても無関心でいてくれるのなら、何もこのようにリュウイチに対して特別な対応を取る必要も無かっただろう。
ただ酒と女と御馳走でもあてがって余計な事に興味を持たないようにしておけば済む話なのだが、リュウイチは犠牲者たちを救うべく大量のポーションを提供してきたばかりか、自身の治癒魔法による支援すら申し出てきていた。
機嫌を損ねることなく人の善意の申し出を断るのは難しい。
幸い、リュウイチは聞き分けの良い人物であったため助かっているが、それでもルクレティアもヘルマンニもヴァナディーズもクィントゥスもサムエルも、その場にいた者たちはリュウイチを諫めるのにそれなりに苦労している。
このような人物が予想外の行動を起こさないようにするためには、自分たちがちゃんと状況を把握し、ちゃんと対応し、今後はどうする予定があるという事を説明し、
そして、それは同時にエルネスティーネやルキウスといった地方領主たちをして、その実力からすれば過剰ともいえる復旧復興策の推進を強要する結果になっている。
カエソーらもそのような事情は理解しており、彼ら自身は後日すぐに帰還する予定ではあるが、連れてきた大隊に対してはアルトリウシアに残して積極的な復旧復興事業に従事させるつもりでいた。
ルーベルトやホスティリアヌスなど降臨について知らされていなかった側近たちは、自分たちの領主が事件翌日から妙に精力的に積極策を打ち出すのを見て心のどこかで疑問を抱いていた。既に両家とも今回の対応での財政出動はかなりの額に昇っていて金庫の中身が急速に減りつつあり、いくら領民のためとは言え家来としてどこかで主人を諫めねばと暗い覚悟を決めようとしていたのだ。
しかし昨日の説明と今日の会談を通じ知らされたその理由には納得せざるを得なかった。
リュウイチはリュウイチで彼らのとにかくリュウイチを安心させようというする意図を正確に感じ取っていた。
日本で大震災があった後、復旧も未だで会社が業務を再開できなかった頃に親会社の偉い人が来て、駐車場に社員を集めて演説した時と雰囲気がよく似ているのだ。
うちの会社は大丈夫だから心配するな!必ず復旧するから!今復旧のために最大限の努力をしているところだから!
具体的に何をどうやっているのかとかいつ頃業務を再開するつもりかなど全然説明せず、ただそんなことを繰り返し言うだけだった。
それを聞かされた社員たちは却って不安になったものだ。
だいたい運送会社はいくら会社自体は大丈夫でも道路インフラが壊れた時点で何もできなくなるのだ。道路が復旧しても電気が戻らなきゃ伝票処理だって出来やしないし、そもそもトラックを動かすための燃料が無い。
何もしようがないんだから余計なパフォーマンスなんかするだけ無駄だろうに、偉い人というのはどうも違う世界の基準で物事を見たがるものらしい。
しかし、だからといって一社員ごときに何をどうできるというわけでもなく、その時はハアそうですかと聞き流すぐらいしかできなかった。
今、目の前にいる
『なるほど、皆さんが最善を尽くしている事が良くわかりました。』
ラーウスの説明が終わり、ルキウスが「以上が現在の我々の状況です。」と締めたところでリュウイチがそう言うと、一同はあからさまに安堵したような表情を見せた。
だからと言って、彼らが別に不誠実という訳ではない。
現に、要塞内の使われていない建物をすべて解体して被災地に移設するとか、備蓄のテントをすべて放出して、食料もその他の資材もかなり被災民のために投じている。
それでもし誰かが攻めて来たら対処できるの?と疑問に思うくらいだ。
実際、災害があった直後は国防上の危機でもある。
日本でも普段からちょくちょく隣国の軍用機が領空侵犯してくるのだが、特に大きな災害のあった直後は必ず領空侵犯する外国機が登場する。自衛隊がスクランブル機を飛ばす対応力を残しているかどうか確認するためだそうだ。
ま、
リュウイチは続けた。
『しかし、私の国でも災害が多かったので分かるのですが、こういう時は色々な物が不足することでしょう。
どうやら
せめて、私が持っているもので何かお役に立つものがあればあるだけ寄付・・・ああ、寄付も簡単に受け取れないんでしたね。
では、寄付の代わりにお貸ししましょう。何ならお金でも。
ですから、何か要りようでしたら遠慮なくおっしゃってください。』
このリュウイチの申し出を聞き、発言の許可を求めた者がいた。
元老院議員のアントニウスである。
「その、リュウイチ様のお金の事でお話ししたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
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