第188話 仲介依頼
統一歴九十九年四月十七日、昼 - 《陶片》満月亭/アルトリウシア
いつもならそろそろ昼食客が入りはじめる時間にはなっているはずだが、今現在『
いや、頭数だけなら入ってはいる。
店の外では数名の野次馬が店内を覗き見ているが、普段 《
「つまり、兄さんがたは
リクハルドの茶飲み話はまだ続いていた。
そして困ったことに彼らが囲むテーブルにはフリクソス・スィミラが山盛りになった皿が置かれている。コーヒーだけじゃ味気ねぇだろとリクハルドが注文したものだった。
フリクソス・スィミラは上質な小麦粉で少し硬めの
大して高価な物というわけではないが、それでも「奢られた」という事実は心理的な圧迫になる。小心者にはむしろこうした安い物の方がプレッシャーとして効果的だったりする。
その効果は如実に表れていた。
「は、はい。そうなのですが・・・その、リクハルド卿・・・
我々も立場がありますので
「おおっ!いや
ただなぁ、さっきも言ったがココんとこ
店も儲けが出ねぇしよ?
だからホレ、いつ頃まで待ってりゃまた来てくれるとかよ、希望ってモンを持たせてやりてぇのよ。」
さっきからずっとこの調子である。確かにリクハルドは軍機に触れる部分までは踏み込んでこないし、
立場的に明らかに上な
もうヤバい、これ以上はダメだ・・・
そういう危機感のようなものが
彼らのそういう感覚がそろそろ頂点に達しようとしていたころ、彼らはようやく解放される事となった。
「リクハルド卿!こちらでしたか・・・」
店に入ってきたのはリクハルドの側近の一人、パスカルだった。
「んあ?パスカルじゃねえぁ、どうした?」
「
「子爵公子閣下ぁ!?」
「はい、お急ぎの御用と言うので、御連れしました。」
パスカルがそう言いきる前にアルトリウスが入って来た。
おいおい、何事だい?
周囲の驚きなど気にする余裕も無さげにアルトリウスがリクハルドへ歩み寄る。
「リクハルド卿、折り入って相談したいことがあります。」
アルトリウスは
「これはこれは
ちょいとお待ちいただけりゃすぐに
リクハルドはのっそりと立ち上がりあえてゆっくりお辞儀する。
「いや、急ぎの用でしたので私が尋ねる方が良かったのです。」
「さぁて、俺っちに急ぎの御用たぁ何でしょうなぁ?」
「今、私の部下の
こりゃあアタリか!?
リクハルドは今朝方、ラウリから『満月亭』で娼婦が一人連れ去られたと報告を受けていた。昨夜来、駆けずり回った挙句、手掛かり一つ掴めなかったラウリはリクハルドに助力を乞うべく『満月亭』からリクハルドの
昨夜の出来事、客の特徴、聞き込みや捜索の現時点での結果・・・いずれも不可解な事ばかり。報告が終わって今後どうしようかとラウリとリクハルドが話をしているところへ『満月亭』のヴェイセルからの
曰く「
さすがにタイミングが良すぎる。事件とコレらを無関係と考えるのは能天気すぎるというものだろう。
謎の男に店の娼婦が
そう考えたリクハルドはラウリを『満月亭』からの呼び出しに対応させるとともに、自身はこうしてわざと時間をずらし、店の様子見を装って
しかし、よもや
「さて、俺っちぁたまたま店の様子を見に来ていただけでね。
そのカッシウス・アレティウスとか言う御人にゃあ会ってねぇもんで、その用件とやらも存じ上げねぇんですがね?」
愛想笑いなのか意地の悪い事を企んでいるのかよくわからないような笑みを浮かべ、リクハルドはお道化てみせる。
アルトリウスが物心つく前から
「・・・そうでしたか。
彼は私の直属の部下で、現在重要な任務に就いているのです。
しかし、不測の事態が生じたために現在その対応に追われておりまして、リクハルド卿の助力を必要としているのです。」
「他でもねぇ、
して、何をすりゃあいいんでしょうね?」
リクハルドはアルトリウスより四インチ(約十センチ)から五インチ(約十三センチ)ほど背が高い。リクハルドはアルトリウスの顔を覗き込むようにわずかに身をかがめ、顔を近づける。表情には笑みが浮かんでいるが、眼光は鋭い。
「
「ふむ」
リクハルドはアルトリウスの目を見たまま笑みを強くすると、すっと背を伸ばした。表情から笑みを消すと声を発した。
「ペッテル!!」
そこにはアルトリウスがパスカルに伴われて来たと聞いて慌ててフロアへ様子を見に来ていたペッテルの姿があった。
「はいっ!!」
「話は聞いていたな?」
「ハイッ!すぐお取次ぎいたします!!」
「おうっ!」
ペッテルが奥へ引っ込むのを見てリクハルドは再び笑顔に戻って身をかがめ、アルトリウスの顔を覗き込んだ。
「ほいじゃあ、さっそく
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