第649話 ブルグトアドルフの戦況(1)
統一歴九十九年五月七日、夜 -
リュウイチのいる
「
『ああ、入ってもらって。』
リュウイチの答えを聞いたネロが扉を開けると、ちょうどアルトリウスらが入口に辿り着いたところだった。
「
どうぞお入りください、閣下」
「失礼します。」
アルトリウスが部下と共に入室した時、中ではリュウイチが腰掛け、
「遅くなってしまい申し訳ございません。
ブルグトアドルフでまた戦と伺いましたが?」
『はい、実は戦闘自体はもう終わったようなのですが、また例のハーフエルフたちが絡んでいるようです。』
アルトリウスの挨拶に答えながらリュウイチはアルトリウスに
「それでは、小官がこれまでにお伺いした経緯をご説明いたします。」
リュウイチも腰掛け、他の幕僚たちも順次腰掛けると、立ち上がったクィントゥスが書字板を近くの燭台の灯りにかざして見ながら説明を始めた。
それによると盗賊団の生き残りがブルグトアドルフで待ち伏せを行い、ルクレティアの一行よりも先行していた“ヒトの軍勢”(おそらく
その時、“西の川”(おそらくシュバルツァー川)から複数のハーフエルフがルクレティア一行に攻撃を仕掛けようとしていたため、それを《
そのすぐ後、《地の精霊》と対峙していたハーフエルフの一人が自分たちが囮であることをバラし、南の森から別動隊が捕虜を奪還したと語ったことから《地の精霊》はハーフエルフをその場に放置して南の森へ移動し、その別動隊の存在を確認。《地の精霊》はその別動隊を一時的に捕獲しようとしたがルクレティアに呼び出されてしまう。仕方なく《地の精霊》は《
「……その後、ブルグトアドルフから逃亡を図った盗賊たちの殆どは“南から来たヒトの軍団”によって大部分が捕縛された模様です。逃げ延びた盗賊は、待ち伏せていたうちの『半分の半分』とのことですので、多く見積もっても三十人に満たないでしょう。
また、《
ブルグトアドルフの火災は戦闘終結後、《地の精霊》様の魔法での御支援により速やかに鎮火したようですが、ブルグトアドルフの住民は
現在、分かっていることは以上であります。」
相変わらず、戦況は非常によくわかる。それが遠く
たしかに、報告者である《地の精霊》が“数”という概念を理解していない上に人間に対する関心の無さゆえに兵数や戦果、損害、そして各部隊の指揮官といった情報は相変わらず分からない。そうした詳細は現地から届く報告を待たねばどうしようもないだろう。
だが、《地の精霊》は個々の“数”や関係者の個人名などは伝えてこないが、おそらく現地の指揮官でも把握できていないであろう“敵情”についても味方のと同程度の情報を伝えてくれている。戦争を遂行する実務者が最も気になる“敵情”をこれだけ早くこれだけ詳細に、そしておそらく正確に、伝えてくれる……それだけでも
「んんん~~」
アルトリウスは呻きながら頭を掻いた。
『何か、ご不明な点はありますか?
いや、私も分からないことだらけなんですが……』
「いや、すみません。
たしかにわからないことだらけで、ある程度は推測できるのですが‥‥‥」
やはり個人名が分からない点などは最たるものだが、情報の欠落というのはどうしても気になる。それ以外の部分が知れているというだけでも十分凄いことなのだが、やはり足らない要素があるというのはどうしても不満の種にならざるを得ない。それがつい表情に出てしまったようだ。アルトリウスは顔をあげ、小難し気な愛想笑いを浮かべながら答えた。
「リュウイチ様のおかげで何が起きたかは理解できました。
つい今しがた、早馬でも一日かかる遠方で起き出来事をこれほど早く、これほど詳細に知ることができるのは大変すばらしいことだと思います。
ただ……」
『ただ?』
「ええ、何が起きたかは理解できますが、何故こうなったのかが推測しきれません。」
アルトリウスはそう言いながら地図を指し示した。その指先はブルグトアドルフの街に侵入し、そして待ち伏せにあったという先行部隊の歩いたであろう経路をなぞっている。
「一番分からないのは、このルクレティア様の御一行に先行してブルグトアドルフに進入し、盗賊団の待ち伏せを受けてしまった“ヒトの部隊”です。
おそらく
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