第667話 裏返しの言葉
統一歴九十九年五月八日、午前 - 統一歴九十九年五月八日、午前 -
ただ、イェルナクによると
あの日、メルクリウス団に精神をコントロールされた者たちが蜂起し、計画を事前に察知していた
もちろん、イェルナクの主張が事実とは異なるのは既に分かっている。イェルナクとしてはメルクリウス団の陰謀ということにすることで、叛乱という事実そのものをなかったことにし、
メルクリウス団そのものは実在するともしないとも言われる謎の存在であり、肯定することも出来ないが否定することも出来ない。ましてや先々月来、プブリウスはメルクリウスの目撃情報によって対応を強いられていた張本人なのだから、その関係者かもしれないメルクリウス団の存在を持ち出されれば無視するわけにはいかなくなる。
しかもイェルナクらにとって都合の良いことに、アルビオンニウムで突如降ってわいたように現れた大規模な盗賊団……その捕虜からメルクリウス団を臭わせる証言が出て来たとなれば、イェルナクの愚にもつかない主張は不相応な説得力を得ることになってしまう。
まかり間違ってメルクリウス団のせいにされてしまったら、レーマ帝国はエッケ島に
それはイェルナクらハン族の者たちにとってはまさに目指すべき理想の結末ではあったが、プブリウスらレーマ帝国側の
まして、イェルナクの言う「メルクリウス団」の正体がムセイオンから脱走して来たハーフエルフたちであることが分かっている今、
それを防ぐためには、イェルナクによるメルクリウス団調査を進行させてはならないのだ。
「だが証言にあるような、まるで
命惜しさに適当な事を証言しているのではないか?」
プブリウスはどこか無関心そうな風を装い、羊皮紙に目を走らせながら言うと、期待を寄せていたプブリウスのあまりな態度にイェルナクが愕然とし、思わず顔を上げた。
「信じられないとおっしゃるのですか!?」
「盗賊の言う事を正直に信じる気にはなれん。
それは当たり前のことではないかね?」
どこか鼻で笑うように言うと、プブリウスは羊皮紙を再び
「しかも、先にコレらを呼んだ
「そ、それは証言者の勘違いということもあります!
細かい部分まですべて間違いなく記憶しておる者などありますまい!?
ですが、大筋においては一致しております。
すなわち、アルビオンニアの地にメルクリウス団が暗躍していると!!」
「その首領共がメルクリウス団だというなら
この証言の通りの超常の力を持っている実力者なら、わざわざ盗賊どもを使う必要などあるまい。」
「そ、それは!!」
「だいたい、盗賊などという
仮に
「そん‥‥‥な‥‥‥」
プブリウスは「立派な報告書」と言ってくれた。「精査する」とも言ってくれた。プブリウスはイェルナクの報告書を高く評価してくれている。だからきっとメルクリウス団捜査に積極的に乗り出すだろう。そして盗賊団の首領の一部なりとも見つかり、捕まれば、メルクリウス団の存在を認めさせることができる。仮に捕まった奴が普通の凡人でも、そいつもメルクリウス団に操られていたのであって、メルクリウス団そのものは脱出したのだということにしてしまえばよい。それで上手く行く。メルクリウス団が暗躍していたという事実さえ認めさせれば、それで
だがイェルナクのその期待は今、大きく揺らいでいる。「立派な報告書」「精査する」というプブリウスの言葉は、字句通りの意味ではなかった。一種の嫌味のようなものであり、真実の逆を現していたのだ。言葉の裏を読むべきだったのだ。
ま、まずい……せっかくの証言記録がこのままでは潰されてしまう!!
イェルナクは顔色を失くし、跪いたまま一歩二歩と前へ進み出ると再び
「お、お待ちください!
メルクリウス団の存在が信じられないとのことですが、実際に降臨があったばかりではありませんか!?」
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