第820話 二人きりの茶会?
統一歴九十九年五月十一日、昼 ‐ 『
マメルクスが大グナエウシアをそちらへ連れて行くのは近習たちに降臨に関連する話を聞かれないようにするためだった。皇帝に仕え身の回りの世話をする近習たちの中でも特に
その点、今回はまだやりやすかった。
降臨への対応はどうしたところでムセイオンとの連絡を密にせねばならず、その手段である『
『魔法の鏡』を通じてムセイオンと交信する……そのように言われれば近習たちとて遠ざけられても納得せざるを得ない。いかなレーマ貴族と言えども、ムセイオンの権威には屈せざるを得ないからだ。
ムセイオンの権威とは世界中から集積された《レアル》の
だからマメルクスはムセイオンの権威を利用し、聖堂のエリアに入ることで近習たちを無理なく遠ざけることができるのだった。
近習を遠ざける代わりに今度は聖堂付きの神官たちが一時的とはいえマメルクスの身の回りの世話をすることになるのだが、神官たちは聖堂の日常の手入れをするとともにいざという時に『魔法の鏡』を起動する役割も担うため、一部の聖貴族を除けば貴族とは無縁な
大グナエウシアには生憎とそんなマメルクスの事情までは察せてはいなかった。彼女も
「さて、掛けるがよい。
ここで
昨日と同じ、聖堂近くの庭園にしつらえられたテーブルセットのところまで来ると、マメルクスはそう言って大グナエウシアに椅子を勧め、同時に自らも椅子に腰かけた。椅子に座ったマメルクスが指を振る様に合図すると、それを見ていた神官が
大グナエウシアはそれを見ながら「失礼いたします」と言って勧められた椅子に腰かけた。席は昨日と違ってマメルクスの右隣りである。
「本日も、
二人の目の前で神官が香茶を淹れるのを眺めながら、大グナエウシアはマメルクスに尋ねた。マメルクスも香茶の方に目をやったまま何の気なしに答える。
「ん?
ああ……いや、いらっしゃったと言った方がいいかな?」
「『いらっしゃった』?
今日でございますか?」
「うむ、来ておられたのだが、既に行ってしまわれたのだ。」
てっきり、今日も昨日と同じ大聖母フローリア・ロリコンベイト・ミルフとお目通りするのだと思っていた大グナエウシアはマメルクスの言葉に驚いた。
行ってしまわれたということは、もうここには居られないということ?
では今日は、
さすがにヒトのマメルクスとコボルトとホブゴブリンのハーフである大グナエウシアが結ばれるということはあり得ないが、それでも大グナエウシアの期待は膨らむ。大グナエウシアは今朝、エーベルハルト・キュッテルからマメルクスがどういう意向なのか探る様に言われたばかりだったからだ。
私と二人で話をするということは、降臨とは別件?
だとするとアルトリウシアで起こったという叛乱のことかしら?
こちらから聞かなくても
自分が知らないことになっている事件についてマメルクスから話を聞きださねばならなかった大グナエウシアとしては、マメルクスの側から切り出してもらえるならこれ以上ありがたいことは無い。
今朝からずっとわだかまり続けていた難問が自ずから氷塊しはじめてくれたかのような期待に大グナエウシアの頬が自然と緩み始める。だが、香茶を淹れる神官の手つきに視線を注ぎ続けていたマメルクスは大グナエウシアの表情の変化など気づけるわけも無く、そのままの調子で話を続ける。
「だが、間もなくお戻りになられるはずだ。
この時、晴れ渡った青い空が急に暗くなったように感じたのは大グナエウシアだけであっただろう。彼女の期待は残念ながら虚しいものとなってしまう。
しかし、マメルクスのセリフに気になる点を見出した大グナエウシアは軽い貧血に見舞われたような感覚に襲われつつも、それについて問いかける。
「お戻りになられると申されますと、
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