第1013話 便所掃除する奴隷たちの会話
統一歴九十九年五月十日、午前 ‐
ちっくしょぉ
いつまで言ってやがんだアウィトゥス、文句言ってねぇで手ぇ動かせ。
尿瓶なんて
小便を集めて納める決まりになってるからさ、それで火薬を作るんだよ。
火薬が無きゃ戦えねぇだろ?
信じらんねぇぜ、ホントにこんなのが火薬になんのかよ!?
そのショーカキンって何だよ!?
菌の一種さ、菌ってのは目に見えねぇくらいの小さい生き物で、硝化菌ってのは糞や小便を餌に硝石を生み出すんだってよ。
目に見えねぇ生物なんてホントに居るのかよ!?
そりゃ居るさ!
何で分かんだよ、目に見えねぇんだろ!?
目に見えねぇからって何も居ねぇたぁ限んねぇのさ。
菌って
違うさ、一緒にするな!
でもさっきロムルスのオッサンが……。
菌は菌だ。
よくわかんねぇや。
ブドウを発酵させてワインを作るのも、魚を発酵させて
俺たちが撃った鉄砲の火薬だって全部小便で作られてんだぜ、アウィトゥス?
そんなの目に見えねぇのにどうやって分かんだよ?!
それが《レアル》の
降臨者様が糞や小便から火薬を作る方法を教えてくだすったんだ。
じゃあ何で小便だけ集めて糞は集めねぇのさ!?
そこまでは知らねぇな、オトなら知ってんじゃなえぇか?
俺も詳しくは知らねえけど、何でも糞にはいろんな菌が混ざってて、そん中には硝化菌を邪魔する菌もいるから、そいつが入らねぇようにするためだってよ。
小便にはその邪魔な菌って奴はいねぇのかよ。
小便には菌は入ってねぇそうだ。
入ってねぇってどうして分かんだよ!?
それも《レアル》の叡智って奴さ!
ホントかよぉ?
嘘じゃねぇって!!
降臨者様がおっしゃられたのさ、人間の小便にゃ菌は混じってねぇってな……
だろ、オト?
いや、俺も知らねぇけど、そうなんじゃねぇの?
オトさんが知らねぇんならやっぱり嘘だな。
オイ!何で俺の言うこと信じねぇんだよアウィトゥス!?
だってロムルスのオッサン、よく嘘言うじゃねぇか?!
嘘なんか言わねぇよ!
たまに間違って憶えてたり、俺自身間違ったことを教えられてたりするだけだぃ。
一緒だろ!?
一緒じゃねえよ!!
嘘ってのは騙すつもりで言うことだろ!?
騙すつもりがなくて本人がそうだって信じ込んでるんなら嘘じゃねぇよ!
それでも言うことが間違ってるのは同じじゃねぇか!?
結局ロムルスのオッサンの言うことは信じちゃいけねぇんだ!
ひっでぇなぁ……
おいオト、笑ってねぇでこの生意気なガキに何か言ってやってくれよぉ。
ロムルスさん、そいつぁアンタの日頃の行いが悪ぃや。
そんなっ!!
新兵相手に威張ってばっかいっから信用を無くすんだろ、ロムルス?
おいゴルディアヌス!
俺だってお前ぇの尻ぬぐい、
ちったぁ口の利き方気ぃ付けろよ!
これだよ。
小っせぇこと気にしてねぇで
手前ぇ、このっ!!
まぁまぁロムルスさん、抑えて抑えて。
だってオト!コイツだってよぉ……
俺があとで言っとくから。
ケッ、ロムルスのオッサンだってオトさんに助けられてんじゃねぇか。
そんなんでデケェ面されたらたまったもんじゃねぇや。
うるせぇぞアウィトゥス!
アウィトゥス、余計なこと言うな。
だって、火薬のことだって結局全部オトさんが答えてんじゃねぇか。
ロムルスのオッサン、自分じゃ何も言ってねぇのと同じだぜ?!
馬鹿言え、俺だって実際に火薬作ってるトコぐれぇ見たことあらぁ!
マジかよ!?
ウッソだぁ!!
ホントに!?
マジさ!
俺ぁ実際に行ったんだ。
山ん中に屋根のでっけぇ小屋があってさ。
床は石畳だけど壁がなくって、土と
すげぇ臭いだったぜ?
ホントかよ?
何で土と藁?
だからその土と藁がさっき言ってた硝化菌の寝床なのさ。
で、小便は硝化菌の餌みてぇなもんさ。
それで三年とか四年とかしたら、その土をでっけぇ鍋で煮て硝石を取り出すんだってよ。
これぁそん時に火薬の職人から聞いたから間違ぇねぇぜ。
ホントかぁ?
ロムルスのオッサンの言うことだからなぁ……
嘘じゃねぇって!
コイツぁ俺が直接この目で見たんだ!
じゃあ何で小屋なんだよ?
土と藁がショーカキンの寝床なら、普通に畑でやればいいじゃねぇか!
硝石は水に溶けるから雨ざらしになんかしたら全部流れちまうんだよ。
じゃあ何で壁がねぇんだよ!?
そりゃ風を当ててやらないと硝化菌が息できねぇからさ。
じゃあ何で山の中でやってんだよ!?
そりゃ臭いがキツいからさ。
人里から離れたところじゃねぇと近所から文句が出るから出来ねぇんだ。
へぇ~、どうやらホントみてぇだ。
アンタ、何でそんなトコへ行ったんだい?
そりゃ俺だって軍歴は長ぇんだ。
ゴルディアヌス、俺ぁお前ぇにチン毛が生えそろう前から
ヘッ、
おい、ゴルディアヌス!アウィトゥス!
言っとくが俺のヘマじゃねぇぞ!?
やっぱり何かの罰だったんじゃねぇか。
うるせぇ!
こういうのは持ちつ持たれつなんだよ!
今、俺たちがやってる掃除だってそうだろうがよ?
連帯責任だっていうなら何でネロの奴いねぇんだよ?
アイツだって無関係じゃないだろ!?
そう言うなアウィトゥス。
普段はこれ全部ネロがやってくれてたんだ。
たまには勘弁してやれ。
そうは言ってもよぉ~。
今日は俺たちに当番が回ってきたとでも思とけよ、アウィトゥス。
そういやネロの奴、今日は見ねぇけどどうしたんだ?
知らねぇなぁ。
なんか朝から様子がおかしかったぜ?
暗い顔して俺んとこ来てよぉ、
へぇ!?
ネロの奴、未だに
何かヘマして
まさか!
無いとは言えねぇだろ?
いや無いな。
何でだよロムルス?
だって俺が給仕を交代してくれって言われたの、
じゃあ何だよ?
知るか!
なんかあったのか?
家族に不幸でもあったとか?
そういやアイツ、家族って母ちゃんだけじゃなかったか?
確かそうだぜ。
親父と兄貴がいたけど、死んじまったって言ってた。
母ちゃんに何かあったとか?
どうかなぁ……
でも昨日まで何ともなかったし、今日はまだ手紙とか来てねぇだろ?
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