第392話 ライムント街道北上
統一歴九十九年五月五日、午前 - ライムント街道/アルビオンニウム
当初、
元々この護衛部隊はアルビオンニウムに派遣されている、そしてこれからアルビオンニウムへ増派される予定の
アルビオンニウム周辺には総勢三百とも目される盗賊団が集結しており、あろうことか
ルクレティアは
今、ルクレティアの身の安全を守ることは世界全体を守ることでもある。言って良いことではないが、あえて言えばブルグトアドルフの住民たちの命を天秤にかけても吊り合いようがないのだ。
しかし、だからといって放置できないのも事実ではあった。放置すればブルグトアドルフや
住民たちは殺されないかもしれない。住民たちは盗賊にとって食い扶持でもあるのだし、住民を皆殺しにして一番困るのは盗賊団自身だ。今回の襲撃で住民たちに大きな被害が出たのは、住民たちが
そこでシュテファンが提示したのは住民たちがアルビオンニウム経由でシュバルツゼーブルグへ避難するというものだった。要するに住民たちの側がルクレティアの一行にルートを合わせるので守って欲しいということである。
護衛隊長のセルウィウス・カウデクスも、
アルビオンニウムは放棄されて無人の廃墟と化しているが、別に立ち入りが禁止されているわけではない。旅人が訪れることに何の問題も無いのだ。実際、アルビオンニウムの市街地は火砕流や土石流によって半ば土砂に埋まってしまっているし人はもう住んでいないが、アルビオンニウムの周辺にはまだ小さな農村が点在していて地域丸ごと無人化してしまったわけでもない。リュウイチの降臨を秘匿する都合上、住民たちについてきてほしくは無いが、それを公然と禁じる理由は存在しなかった。
仮に「ついてきたとしても守れないし守らない」と断言したとしても、彼らが勝手についていくと言えばそれを禁じたり武力で追い払ったりはできなかったのである。
結果、ブルグトアドルフ住人の生き残り百余名と
その車列に加わる荷馬車の上に家財道具などはほとんど載っていない。生き残った住民の三分の二が何らかの傷を負っていて、五体満足でまともに動ける中から子供や老人を除くと、頼りにできる働き手は全体の二割に届かない。その上、ブルグトアドルフにあった荷馬車のほぼ半数を、火災を偽装するために盗賊たちが燃やしてしまったのだ。おかげで荷馬車は怪我人と盗賊に渡さないために
家畜も一応馬だけは連れてきているが、牛、豚、山羊、羊などは連れて来れば足手まといになってルクレティアらの一行に追随できないのが確実だったため、厩舎を開け放っておいてきてしまっていた。
盗賊たちに襲われ、近しい者たちを殺され、食料を奪われ、身一つで逃げ出す彼らの表情は悲愴そのものである。
しかし、ルクレティアらを護る
住民たちが今日中にブルグトアドルフから退去するであろうことは分かり切っていたし、七十三人の負傷者を含む百余名で六十八体の死体の埋葬などできるわけがない。かといって死体を放置すれば来週にはゾンビ化してしまい、ブルグトアドルフ周辺地域の土壌を汚染してしまうだろう。
おかげで死体は無事に土に埋めることができたが、
「小休ー止っ!!」
前衛を務める
ヴァナディーズが襲われたシュバルツゼーブルグの
このきわめて特徴的な武器を不特定多数の人物が共有しているとは考え難い。同一人物が所持、あるいは同一組織で運用されていると考えるのが妥当だろう。
つまり、理由はわからないが何者かがシュバルツゼーブルグからこっち、ずっと一行を…おそらくルクレティアかヴァナディーズのいずれかをつけ狙っていることが予想された。
そして、昨夜の盗賊たちは
推定で三百人ほどと目される盗賊は死者と捕虜で二十数名を失ったわけだが、同時に
やはり奴らが狙っているのが本当にルクレティア様なのか、それともヴァナディーズ女史なのか、それは確かめたいな。その理由もわかれば、少しは対処のしようも見えてくるかもしれん。
セプティミウス・アヴァロニウス・レピドゥスは車列が小休止のために止まったタイミングで自身の馬車から降りた。
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