アルビオンニウム再訪
第391話 移動命令
統一歴九十九年五月五日、朝 - ブルグトアドルフ近郊山中/アルビオンニウム
「
次の指示を聞いてクレーエは驚き、思わず素の言葉で話してしまう。あの人たちの内の一人、クレーエたちとの連絡窓口となっているペトミー・フーマンはあからさまにイヤな顔をして「チッ」と舌打ちした。
舌打ちしたいのはクレーエの方だった。昨夜の作戦は結局失敗したのだ。
たしかにブルグトアドルフから大量の食糧をはじめ結構な量の金品を奪い取ることが出来た。ブルグトアドルフに駆け付けた
だが、壊滅に近い被害を与えたのは
クレーエ自身、昨夜は何度か肝を冷やす場面があった。
だが、町に突入するのは
どうする!?
クレーエは悩んだ。今攻撃しても壊滅するのは
だが
仕方なくクレーエは攻撃開始の合図をし、
クレーエも作戦中止の合図を出してすぐにブルグトアドルフから逃げ出したのだが、町の外周へ回り込んでいた
しかし、ペトミーにとってそんなことは知ったことではない。どうやってクレーエたちの潜んでいる場所を探し出したのか見当もつかないが、夜明けとともにやって来るやいなや、クレーエを捕まえて半ギレ状態のお説教モードである。
「何でオレが“
いったいオレは誰のものになったって言うんだ?
敬称ならミスターだろ!
ランツクネヒト語は分からん、英語か、無理ならせめてラテン語を話せ!」
どうやら語尾が聞こえにくいクレーエのアルビオンニア
クレーエの印象ではペトミーはどうにも気が短い。というより、あからさまにクレーエたちを見下している様子だった。クレーエがランツクネヒト族だからか、それとも辺境の田舎者だからか、それとも盗賊だからか、理由は分からない。ただ、毛嫌いしているという事だけはビンビンに伝わってくるし、彼自身もそれを隠そうとしない。
オレ様が
そして、残念ながらそれを否定したり突っぱねたりするだけの実力がクレーエたちには無かった。
「ああ…
自分よりも明らかに若いであろう童顔のお貴族様、ペトミーの機嫌をうっかり損ねてしまいかけた事に冷や汗をかきながらクレーエは素直にラテン語で謝罪する。
「ですが
それを今からアルビオンニウムへ行けって?
だいたい、何をやらせようって言うんです?
アルビオンニウムなんて今やただの廃墟だ。
金目の物なんて残っちゃいやせんぜ?」
フーッとペトミーは不満げに息を吐き出した。
「やるのは昨夜やったことと同じだ。」
「え!?
てこたぁまた軍隊相手にしようってぇんですかい!?」
「安心しろ、昨夜潰した
今度はお前たちにも銃をくれてやるぞ?」
ペトミーが嘲笑するように口角を吊り上げる。
チッ、“ホイシュレッケ”どもめ…クレーエは顔に愛想笑いを張り付けたまま心の中で舌打ちした。
昨日、
「そいつぁありがてぇや…
だけど
聞いた話だが、相当練習して目ぇつむっても弾込めできるようになるくれぇになんなきゃ、実戦で使えねぇらしいじゃないですか?
軍隊相手に事を構えようってぇんなら生半可じゃまた痛い目見ちまいますぜ?」
「弾丸はともかく時間はないな…」
「ホラァ」
クレーエの笑顔が大きくなった。だが、腹の内では悪態をついている。
練習時間が無い…ということは、移動してすぐに仕事をするっていうことだ。ここからアルビオンニウムまではだいたい一日の距離、盗賊たちの足で急げば半日といったところだろう。つまり昨日の今日でまたすぐに荒事をしなきゃいけないと言うことでもある。そして、その相手はほぼ確実に
先ほどクレーエが言ったようにアルビオンニウムに金目の物など何一つ残されていない。いや、
冗談ではない。昨夜の襲撃だけでも盗賊たちにとっては十分に大冒険だった。侯爵家の私兵である
こっちに二倍の人数が居たとしても、盗賊ごときがまともにぶつかって勝てる相手じゃない。
「だが安心しろ、お前たちの役目はただの囮だ。
銃は弾を込めた状態で渡してやる。
お前たちは夜陰に乗じて騒ぎを起こし、敵を引きつけたら後は戦わずに逃げるだけだ。だから、一発撃てりゃ十分だろう?」
「十分って…」
クレーエの愛想笑いが引きつる。
夜陰に乗じてってことはやっぱり今夜やる気だ。こっちは寝てないんだぞ?
「出来ないのか?」
ペトミーの目から光が消え、どんよりとした暗闇が宿る。ペトミーが相手を殺そうとしている時の目だった。
ヤバイ!!
「
出来ないとは言ってねぇじゃねえですか?
アルビオンニウムなんざ目と鼻の先だ。もちろん行けますよ。
ただ、今急いで移動したってみんなヘバっちまうのは確実だ。そんなんじゃ、とてもじゃないが
俺らぁ
クレーエは身を屈めるようにして精いっぱいの愛想を振りまき、何とかペトミーの勘気を宥めつつ無茶な注文の再考を促す。だが、ペトミーはフンッと鼻で笑って言った。
「安心しろ、お前たちにはスタミナ・ポーションを渡す。」
「すたみな・ぽーしょん?」
クレーエはうっかり、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。それを見てペトミーの表情が変わる。呆れ半分、軽蔑半分といった顔で半歩下がり、汚物でも差し出されたかのように仰け反る。
「まさか知らないのか?」
「
いや、あれって
クレーエは思わず出してしまった素の自分を隠し、御愛想を作り直した。ペトミーの方も安心したように姿勢と表情を戻し、安っぽい威厳を取り
「御伽話の産物ではない、実在するのだ。
それを特別に、お前たちに分け与えてやる。」
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