第1420話 ゴルディアヌスの弁明
統一歴九十九年五月十二日・午後 ‐
なるほど、《
だとすれば、このまま何も聞かなかったフリをして
リュウイチはネロとロムルスを見た。
ゴルディアヌスは具体的にどういう経緯を
しかし、リュウイチにだって知られたくないことがあるのも事実。面倒を嫌って報告すべきであろうことを黙ったままでいた……それどころか事態を
ネロたちに黙ってろと言ったら、黙ってるだろうか?
それとも、どうせネロたちが報告するというのなら、いっそ自分からルキウスさんなりエルネスティーネさんなりに言ってしまった方が誠実なんじゃないか?
けど、何でもかんでも馬鹿正直に全て報告するのは、却って相手の負担になってしまうこともある。社会人にとって
『うーん』
「
リュウイチが唸り声を漏らすと、ようやく回復したらしいゴルディアヌスが椅子から立ち上がった。まだ少し顔色が悪く、立ち上がる際も少しよろめいている。正直、ゴルディアヌスは自分が何故こんなにも弱々しく力が出ないのかサッパリ分からなかった。
ど、どうしちまったんだオレ……?
ゴルディアヌスは人間相手に怖いと思ったことは無い。相手がホブゴブリンだろうとブッカだろうとヒトだろうとだ。相手が自分より体格に
だが、それでも言わねばならないことがある。自分がどうなってしまったのか見当もつかないが、その戸惑いを圧してゴルディアヌスは腹に力を入れた。
「
オレが《
普段のゴルディアヌスからは想像し難い力の無い声は、わずかに震えていた。喉の奥が勝手に絞られ、声も息も思うように出ないのだ。
これが、臆しているってことなのか?
オレが? オレが怯えてるってのか?
初めて気づいた自分の状態に、ゴルディアヌスは戸惑いを新たにする。右手で自分の胸倉をギュッと掴み、それでもリュウイチを見据えたまま何とか呼吸を整える。
リュウイチはその様子を、まだ調子が悪いのではないかと心配しながら見ていたのだが、ゴルディアヌスにはリュウイチのその目は別の意味に見えていた。
こ、殺されるかもしれねぇ……
ゴクリ……やたら飲み下しにくい唾を無理やり飲み込む。
『……………わかった。
そこを疑うつもりはない。
ゴルディアヌスは椅子に座っていい』
「い、いえオレは……」
『いいから座って!
顔色が悪いのに立たせたままじゃこっちが落ち着かない』
強がりを言うゴルディアヌスにリュウイチはうんざりしたように額に手を当て、目を閉じた顔をわずかに背けながら言うと、ネロとロムルスが左右から「いいから座れ」「
『それで、君は怖がるエルゼちゃんを安心させるためにやったんだな?』
ゴルディアヌスの意識は自分の内面へ向きかけていたが、リュウイチの声に引き戻され、慌てて顔を上げる。
「は、はい
『エルゼちゃんに、《
「いえ、まさか!」
額に当てた手をわずかにあげ、その下からゴルディアヌスに視線を向けたリュウイチの質問にゴルディアヌスは身体を震わせた。
「《
『エルゼちゃんには何て言って戻ってもらったの?』
「え……その……何かあったらオレが必ず助け出しやすって……」
リュウイチは額に当てていた手を降ろし、改めてゴルディアヌスに正面から向き合った。
『それで安心してもらえたなら《
ゴルディアヌスは一瞬背を伸ばし、口をまっすぐ引き結び、目を見開いた。そんなこと思ってもみなかった……とでも言うように。が、すぐに質問に答えなければと気づき、懸命に弁明しはじめる。
「い、いえ、それで何にもしねぇのは嘘をつくことになっちまいます!
せめて中で何かあったらすぐに気づけるようにしねぇと!」
リュウイチの目にゴルディアヌスが嘘をついたり適当なことを言っているようには見えなかった。この男はこの男で馬鹿正直なのだ。
「だからって
「異教徒のオレがキリスト者の礼拝に参加できるかよ!?
だいたいオレぁホブゴブリンだぞ!
お前ぇなら入って行けるのかよ!?」
呆れて横から口を挟んできたロムルスに対するゴルディアヌスの反発は、これまでの弱々しさが嘘のような勢いがあり、ロムルスは思わず目を見開いた。イチイチ虚を突かれるロムルスは想像する力が根本的に足らないのだろう。
考えてみればその通りで
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