第1419話 トルキラの適正
統一歴九十九年五月十二日・午後 ‐
『あ、ああ……うん……』
ゴルディアヌスの
『《
この鳥が、トルキラか!?』
『はい、我が眷属のトルキラめにございます』
『そ、そうか……』
妖精と言われていたからもっと違ったものを想像していた。確かに鳥の姿をしているとは言っていたが、それでも妖精なら普通の鳥とは多少は違うだろうと……だが今目の前に居るトルキラは何の変哲もない鳥である。スズメの倍ほどの大きさはあるが、色は似たようなモノだ。いや、茶色に黒と白がまばらに散った模様は
『トルキラよ、主様に直答するを許します。
お前が私に何を命ぜられ、何を為したか御報告申し上げなさい。
ただし、お前の後ろにいるホブゴブリンたちは主様の
固まってしまったリュウイチに配慮したのか、あるいは自分の眷属の働きぶりを自慢したいのか、《風の精霊》はリュウイチを待たずにトルキラに指図する。トルキラは身動ぎ一つせずにチーッと澄んだ張りのある声で一声鳴いた。
『ワタクシめは《
ゴルディアヌスは貴族の娘を守るため、部屋に毒が撒かれたりしないように見張ることをワタクシめに頼みました。
その際、部屋の人間に決して見つからないよう、魔力も使わぬようにと注意を受けました』
リュウイチたちは話を聞いているうちに我に返る。
『それで、君は何をどうしたんだ?』
トルキラはリュウイチから直接質問されたのに驚いたのか一瞬ピクリと羽根を痙攣させ、それからこれまでよりもやや緊張した様子で答える。
『はい、ワタクシは頼まれた通り、天井に近い窓から部屋に入り、中の様子をうかがっておりました。
中の人間たちが話したり歌ったりしている間、毒の気配も他の怪しい気配もありませんでした』
『見つからなかったのか?』
『中の人間でワタクシに気づいた様子の者は一人としておりませんでした』
リュウイチは鼻の下をさするように片手で口元を覆い、一度大きく息を吸う。
見つかった様子が無かったからと言って見つかってないと断定できるわけではない。気づいていながら無視していた可能性も無くはないはずだ。
『中に入ったと言ったが、あの部屋は壁をすべて暗幕で覆って外の光が入らないようにしている。
どこから入っても中の様子は見えないはずだ』
『おっしゃる通り、分厚い布が行く手を阻んでおりました』
日光を浴びると火傷を負ってしまうカールの体質ゆえに、あの部屋は外光が一切入らないように壁際に暗幕が張り巡らせてある。以前、そんな中でロウソクを大量に灯して一酸化炭素中毒事故を起こしてしまった反省から、リュウイチが対光属性防御魔法を使ってカールが光を浴びてもダメージを負わないようにしている間だけ暗幕を開けて換気をするようにはなっているが、礼拝のために呼んだ聖職者たちが居る間はそれもできない。従来通り暗幕は完全に締め切られていたはずだ。そして暗幕は分厚く重たく、小鳥が自分が通るために退けたり動かしたりするのは不可能だろう。
『どうやって入った?
それとも、暗幕の外側から中の様子をうかがっていた?』
『はい、高窓から部屋にはいったワタクシは暗幕や壁を伝って天井へ登り、そこから天井の
ワタクシはそのまま、梁から部屋の中の人間を、歌や話が終わるまで見下ろしていました』
カールの部屋の天井は確かに梁がむき出しになっている。これは内装を省いたとかいう話ではなく、布を吊り下げたりしやすくするためにわざとそうなっている。レーマ帝国では
だが、おそらく採光用の高窓から入ったとしても暗幕や壁を伝って天井までよじ登り、そこから梁に掴まって移動するというのは、鳥には難易度の高いかなりアクロバティックな行為に用に思える。
『……そんなこと、できるのか?』
『ワタクシめには造作もないことにございます』
リュウイチの疑問に誇らしげに答えるトルキラを《風の精霊》が補足した。
『トルキラはキツツキの仲間。
ゆえに垂直の幹に捕まることも、枝の下側に掴まりながら脚だけで移動することも難しくありません』
『ふーん……』
そう言われるとそうなんだろうなという気になってくる。確かにキツツキなら樹の幹に掴まったままドラミングで木に穴を
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