第1399話 期待するもの
統一歴九十九年五月十二日・午後 ‐
ルキウスはジロリとアルトリウスを
「で、現状は分かった。
それで、これからどうするのだ?」
ルキウスはアルトリウスから目を逸らすと溜息をついて問うと、アルトリウスは背筋をスッと伸ばして答えた。
「それを御相談しにまいりました」
「質問を変えよう。
お前はどうしたいのだ?」
眉間を揉みながらルキウスが苛立ちを隠しつつ問い直す。アルトリウスにはもちろんアルトリウシアの兵権の全ての預けてある。先週からはグナエウス街道周辺での森の管理を担っている猟師たちも預けているのだから、グナエウス街道周辺の問題を処理するのにルキウスが提供できるものはもうこれ以上はなく、アルトリウスは全てを自分で判断し、自分で対処できる筈である。にもかかわらずルキウスに相談しに来たということは……
「リュウイチ様の、御協力を仰ぎたいと……」
予想通りの答にルキウスは深い溜息をついた。
「アルトリウス、リュウイチ様を戦闘に巻き込むようなことは……」
「もちろんしません!」
釘を刺そうとするルキウスの反応は予想していたのだろう、アルトリウスは言い切る前に断言する。
「ではどう御協力を仰ぐつもりだ。
《レアル》の
リュウイチの魔法や持ち物を借りるような話ならダメだ。この世界で再現できないものなら等しく《レアル》の恩寵として位置づけられるため、大協約に抵触してしまう。植物状態になっていたカール・フォン・アルビオンニア侯爵公子を治療してもらったこと、ネロたち奴隷に下賜された
ルキウスの覚悟を知ってか知らずか、アルトリウスは自信たっぷりに答えた。
「グルグリウス様をご紹介いただきたいのです」
「グルグリウス様?」
「はい、最近の
「ああっ!」
途中で思い出したルキウスは手を上げ、食いつくようなアルトリウスの説明を中断させる。
「《
たしか、グレアトル・ガルゴイレとかいう……」
「グレーター・ガーゴイルです、
グレーター・ガーゴイルをラテン語読みしたルキウスをアルトリウスが訂正すると、ルキウスはうるさそうに顔を
「グルグリウス様は
一昨夜、かのペイトウィン・ホエールキング二世を捕えて
そして此度は
アルトリウスの熱心な説明にルキウスは顔を顰めたままではあったが、顎に手を当て考え始める。確かに『勇者団』に対抗しうる十分な実力を有していて、なおかつグナエウス砦とアルトリウシアの間でコチラ側のために働いてくれる唯一にして最強のカード……それを思えば利用しない手は無いような気はしてくる。
「それで、そのグルグリウス様に
ルキウスに問われたアルトリウスは前のめりにしていた上体を起こした。
「いえ、そこまでは……
しかし既に
「連携か……」
これまでのカエソーやルクレティアから送られてきた報告を信じるならばグルグリウスは確かに信頼しうる戦力だろう。ムセイオンの魔法使いとしては最強とも言われるペイトウィンを単独で追跡し、捕えてくるのだからその実力は疑いようがない。しかし、実力さえあれば他はどうでもいいというわけでも無かった。
「連携できると思うか?」
「と、いいますと?」
アルトリウスはグルグリウスは既に『勇者団』を監視する仕事に就いているのだから、連絡さえできれば連携は可能だと考えていた。そしてそれが可能となればアルトリウス率いる
だがルキウスの口ぶりからするとどうやらアルトリウスが気づいていない問題点があるようだ。普通の若者なら
「グルグリウス様は今
「その通りです」
「ならば、我々の都合ではなくサウマンディアの要請に従って行動するのではないか?」
アルトリウスは表情を険しくした。
「つまり、グルグリウス様は我々に協力しないということですか?」
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