第1398話 状況把握
統一歴九十九年五月十二日・午後 ‐
「
腕を伸ばして遠く離した手紙を何度も繰り返し読み返すルキウスが呻くように言った。その顔が
「可能性として否定はできませんが、怪しい人馬を見かけたというような報告は今のところ上がってきておりません」
アルトリウスが答えながら横目でラーウスを見、視線で「そうだな?」と確認を取るとラーウスは小さく頷いた。
「街道を使うとは限るまい。
実際、ブルグトアドルフの一件では、
レーマ帝国は軍や早馬の通行を円滑にするため、版図内の主要な都市同士を街道で結んでいる。その街道沿いには一定間隔で
ルキウスの指摘に対しアルトリウスは首を振った。
「
ライムント地方の地理は盗賊たちから得たのでしょう。
しかし、グナエウス峠よりこちら側の地理を得ているとは考えにくいものがあります」
盗賊とは言うまでもなく人から金品を奪うのが仕事だ。当然、獲物である人間が多くいる場所でしかできない。人口百人かそこらの小さな村落では、近くに余程多くの旅行者が頻繁に通りかかるのでない限り成立しない。しかも捕まらずに逃げるためにはそれなりに土地勘がなければならず、他の地域に遠征に行くということは無いわけではないが、土地勘のない土地への遠征は地元民の反撃にあうリスクが高く成功率は高くない。ゆえに、一部の土地にしがみついて盗賊を働くことになる。もちろん、治安機関がそれを放置するわけもなく、盗賊の寿命は三年に満たないのが通例だ。
シュバルツゼーブルグ周辺の盗賊たちも同じで、シュバルツゼーブルグがそれなりの人口を抱えるからこそ彼らは獲物にありつくことができているのだし、土地勘があるのと、大量の難民を受け入れたせいでシュバルツゼーブルグの人口が
「アルトリウシアに土地勘のある盗賊が
ルキウスは手紙を近くの
つまりアルトリウシアのグナエウス街道周辺には盗賊なんていなかったし、土地勘を持つ者はすべて定職に就いている者だけなので盗賊に身を堕とすことも考えにくい。よって、アルトリウシアのグナエウス街道周辺の山中に土地勘を持つ盗賊などという者が存在する可能性は限りなくゼロに近かったのだ。
しかし養父とはいえ主君でもある領主のルキウスのいうことを真っ向から否定することも出来ない。アルトリウスは苦笑いを浮かべ、やんわりと否定しつつ肯定もするという選択をせざるを得ない。
「ゼロではなくとも限りなくゼロに近いと言わざるを得ないでしょう。
しかし、峠を越えたはずの
何らかの方法で地理を得ている……そのように考えるのが妥当でしょうな」
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