第1215話 逃亡の必要
統一歴九十九年五月十一日、午前 ‐ ヘーレン商会の倉庫前/シュバルツゼーブルグ
何が
結局ティフ達はそのまま二時間ちかく“取り調べ”を受けることになってしまった。ティフ達がアジトに残していた荷物はティフ達の物で盗まれたものではないと認めてもらえたが、クプファーハーフェンの支援者……実際は詐欺師だったわけだが……から借りたアジトは呆気なくすべて取り上げられることになってしまった。馬も返さざるを得ない。幸い、レーマ軍の
ひとまずティフ達は金を払うことでその場で開放してもらった。それがなければ役人の所へ連れていかれていただろう。いくら詐欺師に騙された被害者だからと言っても、馬を盗んだという事実自体は無くならない。それがなくとも犯罪に関係したことは間違いないのだ。
にもかかわらず解放してもらえたのは建物と馬の賃料を支払うことで、自分たちは結果的に盗みを働いてしまったかもしれないが騙されただけであって盗んだつもりは無かった。法に則った正しい取引をするつもりだということを態度で示したからだった。いくら騙されたといっても、金を払わなかったら被害者側からすれば騙されたかどうかは関係なくなる。そもそも、ティフ達が騙されたという話自体が嘘かもしれないではないか……。
とまれ、結果的に
「参ったな……朝飯どころじゃなくなっちまったぞ……」
アジトだった倉庫を出たティフは溜息をついた。
「どうしますか、多分
そう、街の南外れの街道ちかくでデファーグが馬四頭の番をしながら、ティフ達が朝食を買って戻って来るのを待っている。デファーグと別れてから既に二時間半は経っただろう。いくら何でも待たせ過ぎだ。
「そうだな、急いで戻らなきゃ。」
スワッグの指摘にティフが答えるとソファーキングが抗議する。
「えーっ、食事は!? 食べ物はどうするんですか?」
『そんなのどうでもいいだろ!?』とスワッグは声に出さずに口パクだけで説教するが、スワッグのそれに気づかなかったティフはティフでフッと呆れたように笑った。
「お前、捕まりたいのか?」
ソファーキングは眉を寄せ眉間にシワを作り、困惑を露わにする。
「え!?
だってひとまず我々は解放されたじゃないですか?!
さっきのNPC商人だって我々を役人に突き出さないって……」
ティフはあからさまにがっかりしたように溜息をつくとソファーキングは思わず途中で口を
「お前は郊外のアジトのことを忘れたのか?」
「えっ、いや……そこはもうレーマ軍が……」
「そうだ、あそこはもうレーマ軍が抑えている!「
ティフが感情的になって少し大きな声を出したためスワッグが慌てて制止し、周囲を見るように目配せした。周りを見ると、行きかう
ティフは苛立ちと気恥しさとが
「続けるぞ。」
誰にも聞かれなさそうなことを確認するとティフは二人を前に話の続きを始める。
「あそこはもうレーマ軍が抑えた。
レーマ軍はあそこが
それは分かるな?」
二人は声を低く抑えながら話すティフに調子を合わせ、小さく「はい」と答えながら頷いた。
「俺たちは借りた建物をあの
これは俺も悪いが、あのアジトのことも借りたって言ってしまった。」
ティフはそこで一旦言葉を切り、今にも舌打ちしそうなほど忌々し気に顔を顰めてから、何かを思い直したように続けた。
「あの商人は詐欺師のことを役人に通報するだろう。
その報告はレーマ軍にも行くはずだ。
するとどうなる?」
「!! あの
ハッと何かを思いついたように答えるソファーキングにティフは失望を露わにする。
「そうじゃない!」
ソファーキングの指摘は思いっきり的外れだった。ティフが呆れるのも無理はないだろう。
レーマ軍は『勇者団』の存在を、ムセイオンから脱走した聖貴族が盗賊団を率いて暴れまわったことを知っている。その上、メンバーを三人も捕まえてしまった。なのにシュバルツゼーブルグの街の住民たちは『勇者団』のことなんか誰も話していなかった。つまり、レーマ軍は『勇者団』のことを公表してない……それどころか隠しているということになる。であれば、商人がティフたちのことを報告したところで、その商人にティフの正体について教えることは無いと考えて間違いない。
「レーマ軍はあのアジトが
そこへあの商人が俺たちのことを報告してみろ。
あのアジトを借りたのは俺たちだって知るだろ?」
「……それは、レーマ軍は既に知ってるんじゃ……」
スワッグはティフの言わんとしていることに気づいたようだがソファーキングはまだ気づいていないようだ。ティフは「そうじゃない」と残念そうに首をふる。そしてソファーキングをまっすぐ見つめて言い直した。
「レーマ軍は、あのアジトの借主である
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