第774話 皇帝からの秘匿要請
統一歴九十九年五月九日、夕 ‐ タウルス・アヴァロニクス邸/レーマ
皇帝からの急使だというので
「なんだと、今更か!?」
「はい閣下。
皇帝からの使者が
「どういうことだ?
日焼けと酒で赤くなった彼の顔は窓から差し込む夕日に照らされて真っ赤になっている。『
「陛下におかれましては、この要請は
「馬鹿を言え!」
両手を広げたフーススは冗談を笑い飛ばすようにハッと天井を見上げると、再び使者へ向き直った。
「降臨の事実を伏せたままどうやって使者の人選を進めよというのだ!
使者は
まさか
レーマ市民は単純明快な性格だ。
逆にコソコソと隠れて何かをしていれば、それだけで市民から軽蔑を集めてしまう。上級貴族のくせに何か隠れてやってやがる……という噂がたちでもすれば、それだけで次の選挙が危うくなることも珍しくないのだ。
それなのに降臨の事実を隠したまま元老院議員から人を選び、往復で半年はかかるであろう辺境の地へ送り出すなど不可能に近い。事実上、やるなと言っているに等しかった。
「それは私では何とも……
ともかく、降臨したのが《
使者が額にかいた汗を
そうだ、コイツをドヤしつけても意味はない……
見れば
フゥゥ~~~~~っ
フーススは大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせるが、使者からはそれこそ
「だが分からんな。
何でそんな話になった?
貴様、何か知っておるのか?」
フーススが尋ねると使者はビクッと一瞬身体を震わせ、それから自分より背の低い目の前の男の視線を逃れようとするように目を泳がせ、そして言葉を探しながら答えた。
「それは……
「
驚いたフーススはタンッと音を立てて酒杯を卓上へ戻し、使者の方へ身体ごと向き直る。
「はいっ、こ、皇帝陛下におかれましては、
「
使者の言葉をフーススが先取りすると、使者は「はいっ」とひっくり返りそうな声で答え、ごくりと飲み下しにくそうに唾を飲んだ。
「
フーススは驚きの表情のまま顎に手を当て、さすりながら
『魔法の鏡』……その存在はフーススももちろん聞いたことがあった。だがさすがに実物は見たことが無い。聞けば遠く離れた相手と居ながらにして顔を合わせ言葉を交わすことのできる
「はい、
驚いたフーススが視線を離したために多少気の安らぐのを感じながら、使者は聞かれたわけでもないのに説明した。
ムセイオンへの報告は
フーススたち守旧派議員たちはマメルクスがムセイオンに手紙で報告すると思っていた。ムセイオンからの返事を待ってマメルクスが使者を出すことになれば、ムセイオンとの間で手紙が往復するのに最低でも一か月……その一か月の間に彼ら元老院側が準備を整え、使者を送り出せばその分だけでも皇帝に対して優位に立てる可能性が出てくる。そこにフーススたちは期待していたのだ。
現地へ行って降臨者と接触したであろう元老院議員アントニウス・レムシウス・エブルヌスの報告を待ってから使者を出すように釘を刺されはしたが、それも途中のクィンティリアあたりで合流して話を聞くことを前提に使者を出してしまえば何とかなる。うまく行けば皇帝からの使者に先んずることも出来るかもしれない。
そう思っていたが見通しが甘かった。半月どころか魔道具を使ってたった一日で報告を済ませ、それどころか対応の検討まで済ませて「降臨のことを伏せる」という方針を打ち出してきたのだ。
下手すると
そうなっては最早太刀打ちできん。元々
皇帝を出し抜き、うまくすれば帝位そのものを廃止に追い込むきっかけになるかもしれないと期待していたフーススは
クソッ……なんてことだ。
これでは皇帝位を廃止して再び元老院の権威を復活させるどころか、逆に皇帝の権威を高めることになってしまうではないか!!
悔しさに顔をゆがめ、フーススは髪の毛の薄くなった頭をガリガリと掻きむしる。
!……まてよ?
フーススは頭を掻きむしるのをやめ、顔を挙げた。
「おい!」
「はっ!?」
唐突に話しかけられ、それまで弛緩していた使者は再びビクリと身体を震わせて緊張を新たにする。
「
貴様、何か聞いておるか?」
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