第1309話 不満足な答
統一歴九十九年五月十一日、夜 ‐
何とも釈然としない結末に、
彼らは非常に高貴な御身分の
グナエウス砦に居て兵士と共に行動している以上、おそらく軍の関係者だろう……そんなメルキオルの予想は半分当たっていた。何かの特殊任務についている人物というのも当たっていた。が、魔力の素養の高さからいずれは
メルクリウス捜索の専門家……か。
自分の疑問に自分で答えられなかった。だからこそメルキオルはウッシの望む通り
降臨者を召喚してヴァーチャリア世界に文明を
しかし、メルキオルが納得したからと言ってそれですべてが解決したわけではなかった。
メルキオル自身はあの謎の巨漢について特別な感情を抱いているわけではない。変わった
彼女は
いや、もしかしたら本当に
ウッシは元々信仰心の
魔力に限らず他人には無い特別な才能を見出された若者と言うのは、どうしても選民思想じみた優越感を抱いてしまうものだ。自分は天才だ、特別なんだ……そういった感覚は言ってみればナルシシズムの一種なわけだが、周囲がそれを認め、褒めそやし、それを理由に甘やかしたりすると容易に自分を見失い、他人を見下すようになり、社会性を失ってしまうことになりかねない。子供のころから英才教育を受けた天才たちに人格破綻者が多いのはこれが理由だ。数多くの子供たちの中から特別な才能の持ち主を見出し、その才能を伸ばしながら選民思想じみた優越感におぼれさせることなく社会性も同時に育むのは、おそらく教育学にとっての永遠の課題であろう。
レーマ正教会の場合はそれに対して信仰による解決を試みていた。お前たちのその才能は神から与えられたものである。神はお前たちを通じて奇蹟を起こそうとされておられるのだから、お前たちは信仰を捧げ、神の
そうした背景からレーマ正教会の司祭・女司祭には信仰の篤い人物が多い。メルキオルのような牧師たちが言わば哲学・
キリスト教は一神教である。神と聖霊たちのみを敬い、異教の神に信仰を捧げることは許されない。
しかし多神教、多宗教であるレーマ帝国でそれではやっていけない。ましてキリスト教が当時敵対していた啓展宗教諸国連合側の主要な宗教であり、レーマ帝国で信仰している神々と敵対する存在だと
レーマ正教会の場合、異教の神であってもそれを信仰する者がいるならば、一定程度の敬意を払うこととなった。信仰を捧げるのは自分たちの神のみ、異教の神はそれを信じる友人を尊重するために敬意を払うが、信仰まではしない。そういう距離感を保つことで他の宗教やその信者たちとの融和を図ったのである。
だが基本的に異教の神のレーマ正教会内での位置づけは
要は件の巨漢が融和すべき誰かの関係者であることを明らかにできればよいのだ。誰かが信仰している、あるいは誰かが使役している存在ならば、“キリストの敵”という認定は回避(厳密には一時保留)することができる。一応、カエソーと契約しているそうだが、それだけでは“キリストの敵”という認定を回避できない。メルキオルはその辺割と柔軟ではあったが、ウッシ尼のように厳格な人物がメルキオルと同じように柔軟に判断してくれると期待するのは難しい気がした。
あの巨漢が
だがその人物のことは伏せられていた。嘘かホントか、砦司令官も知らされていないとのことだった。砦司令官ですら知らされていないのなら、メルキオルがカエソーに直接尋ねても教えてはもらえないだろう。もちろんメルキオルがカエソーに直接会える立場にあるわけではないのだから土台無理な話だ。
あの巨漢と
いや、どちらも同じ
そんな都合のいいこと考えて目を背けちゃいけない。
今は誤魔化せたとしても、もし二人が出くわした時に説明できなきゃ……
何が起こるかわからない……そう悩みながら今夜の宿へと戻るメルキオルの進む先から、見覚えのある大きな人影が近づいてきていた。
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