第955話 邪悪
統一歴九十九年五月十日、未明 ‐ ブルグトアドルフ近郊/アルビオンニウム
ペイトウィンはクレーエを
既に耳を
クソッ、エイーを人質に取られなければあんなNPCなんて……
ペイトウィンもハーフエルフだ。他のハーフエルフたちと同じように魔力にる身体強化によって、常人を遥かに上回る近接戦闘能力を発揮できる。もしもプライドを捨てることが出来たなら、魔法などを使うまでも無くスワッグ・リーのようにクレーエを一瞬で殴り殺すことも出来ただろうし、スタフ・ヌーブのように一瞬でクレーエの身体を両断することもできただろう。だが、それももしもプライドを捨てることが出来たならだ。
ペイトウィンは魔法に強いこだわりがある。魔力に優れたハーフエルフとして生まれたのだから、魔力を活かして魔法を鍛えればいいじゃないか、ヒトみたいに身体をイジメて鍛えるなんてカッコ悪い!……小さい頃からそう考え、身体を鍛えることを馬鹿にし、魔法を鍛えることに熱中し続けてきたのだ。
それは実は運動神経が特に優れているわけでもなく、他のハーフエルフたちより運動が苦手だったことの
しかし、魔法による攻撃を封じられたからといって諦めるわけにはいかない。魔法を使わず、自ら物理攻撃を行わずに
待てよ……向こうが人質を取るならこっちだって……
ペイトウィンはふと周囲を見回した。前方にはクレーエと、エイーを肩に担いだレルヒェとかいう部下が
「おい!お前ら!!」
ペイトウィンは火の球を消すと唐突に右側を向き、声を荒げた。盗賊たちは一斉にビクッと身を震わせる。
「俺に付け!
そして今すぐ
人質を解放し、あの
「これ以上は
クレーエの制止も聞かずにペイトウィンは続けた。
「金貨をやるぞ!?
本物の金貨だ、見たことあるか!?
何なら、アレの代わりの
俺にとっては大したもんじゃないが、お前らが一生かかってもお目にもかけられないようなお宝だぞ!」
「旦那!!」
クレーエがひときわ大きな声をあげると、ペイトウィンはようやく黙り、ジロリと横目でクレーエを睨む。クレーエはその視線に
「コイツぁアタシが《
友達の
だからアタシャこいつを持ってねぇといけねぇ。
さっきは持ってるだけで使わずにいただけで、何で使わねえんだって怒られちまったくらいなんでね。
だから渡すわけにゃいかねぇんでさぁ。
コイツが欲しけりゃ、旦那も《
頼んでみりゃぁいただけるんじゃないですかね?」
クレーエが示している忍耐は、他の盗賊たちからすれば驚異的といって良いかもしれない。
欲しいものを
だからと言って盗賊たちに
「フフゥーーーーッ」
クレーエを睨んでいたペイトウィンはそのままの姿勢で邪悪な笑みを浮かべると、クレーエに負けないくらい盛大に白い息を吐きだす。
「分かってないなぁ、お前!」
「……何がです?」
「俺はお前のその
お前のその
「じゃあ何なんです!?」
ペイトウィンが勝ち誇ったように言うとクレーエは呆れを隠すのも忘れ、顔を
「言っただろ?
それはお前が持つのに
いいか、俺は、お前が、それを、持っていることが気に入らないんだ!」
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