第1342話 魔力覚醒の原因
統一歴九十九年五月十二日・朝 ‐
正直言って自分で随分筋の通らないことを言っている自覚はあった。というより、自分が何でそんなことを言ったのかがわからない。自分が何を考えているのか、自分が何を言おうとしたのか、サッパリ分からない。
リュウイチが悪くないことは分かっているのだ。ネロたちから見て自分がどれだけ酷い女に見えているかも、そしておそらくリュウイチを失望させているであろうことも理解できていた。だからといっていつでも自分を完璧にコントロールできるわけではない。そもそも何をどうしたらいいか分からないのだ。
冷静に振り返れば確かに生理で精神的に不安定になっていたというのもあるだろう。見ず知らずの場所に突然連れ込まれてそのまま一か月近くも軟禁状態が続いているというのもあるかもしれない。仲の良かった友人知人から引き離され、勝手の分からない
生理で出歩きたくないのにリュウイチが話があるというから、下り物が漏れちゃ大変だと
その状況で息子フェリキシムスが魔力を持って
「ゴメンね。
アタイ、まだ調子が悪いみたい……」
結局、リュキスカが落ち着くまで数分の時を要した。その間沈黙を守り続けたリュウイチやネロたちにとってその時間は中々重苦しいものではあったが、リュキスカがわずか数分で立ち直ってみせたのは良かったとも言えるかもしれない。もしリュキスカがこの場で立ち直らなかったり、立ち直る前にリュウイチたちが待つことに飽きて溜息の一つでもついてしまえば、この場の人間関係は壊れてしまっていただろう。
『いや、大丈夫。
気にしなくていい。
平気?』
「大丈夫、ありがと。
まだ、話があるのよね?
あと一つだっけ?」
『ああ、いや……』
勝手に感情を
戸惑うリュウイチにリュキスカが目を向ける。その顔には先ほどまであった険は無かった。
『まだ一つ目の話は終わってないんだ』
首の後ろあたりを掻きながらリュウイチが言うとリュキスカはバツが悪そうに眼を少し背ける。
「ああ、ゴメン……
すぐにリュウイチに向き直り、「まだ何かあるの?」と問いかけて来たリュキスカにリュウイチは答えた。
『話を続ける前に一応訊くけど、魔力制御の訓練はずっと続けてるんだよね?』
「え?!」
フェリキシムスが母乳で魔力酔いを起こしていると発覚した翌日からリュキスカはルクレティア・スパルタカシアの指導の下で魔力制御のための訓練として瞑想をすることになっていた。その指導役のルクレティアはアルビオンニウムへ旅立ってしまい、現在はリュキスカに瞑想を指導する者が居ない。オトに訊く限りでは「一応、やってはいらっしゃるんですが……」と言葉を濁すような報告が返って来るばかりだ。そもそもオトには魔力の素養などないのでちゃんとできているかどうかは分からないのだそうだ。
「や、やってるよ!?
もちろん、毎日……ちゃんと?」
急にソワソワしだすリュキスカの様子には現に目の前に居るリュウイチでなくても気づくだろう。実際、部屋の入り口で話を聞いてないフリをしているロムルスでさえ内心で「あちゃー」と嘆息したほどだ。もっとも、他人の失敗が大好きなこの男は口角を歪めて半笑いをかみ殺していたが……
リュキスカのことを多少なりとも信用していたリュウイチもさすがに怪しく感じ、『本当に?』と
「いや、あの……ホントにやってはいるんだよ……
ただ、ただね?
あの、瞑想ってのやってるとさ……
なんか、途中でアタイ……寝ちゃうんだよね」
リュウイチは呆れたように無言で嘆息したが、その表情に失望の色は無かった。リュウイチの
リュキスカは魔力制御を身に着けるために瞑想する時、ルクレティアに指導を受けていたわけだが、瞑想が上手くいっていないとすぐにルクレティアに見破られ、その都度「魔力が乱れている」「もっと集中して」などと指摘されていた。今目の前にいるリュウイチは降臨者で、ルクレティアなんかとは比べ物にならないほど強大な魔力を持っている。
『君が毎日訓練を欠かしてないことはオトが報告してくれてたよ。
上手くいってるかどうかは自分では分からないとも言ってたけど』
「ああ、うん……」
『で、赤ちゃんが魔力を持ってしまった件だけど……』
「や、やっぱり、アタイのせいなのかい!?」
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