第747話 サウマンディアからの報告
統一歴九十九年五月九日、午前 ‐ 『
現
フーススをはじめとする守旧派は
しかし、現状では大戦争は終わっても版図拡大のための対外戦争が継続しており、レーマ皇帝はその事業を統括し支援する必要があるとして存続し続けている。また、各領主も皇帝が廃されれば自分たちの地位が危ぶまれることから、守旧派の勢力が強まりすぎないよう、皇帝を支持し続けていた。特に各属州の
ウァレリウス氏族はクレメンティウス朝レーマ皇帝を支援することで一挙に勢力を拡大した貴族であるため、当然ながら元老院ではレーマ皇帝を支持する傾向にある。特に帝国で最大の広さを誇るサウマンディア属州は実は産業の育成がうまく行っておらず、広大すぎる領地を維持するために
そのプブリウスが同じ報告を送ってきている……となればもう、クレメンティウス朝レーマ皇帝マメルクス・インペラートル・カエサル・アウグストゥス・クレメンティウス・ミノール陛下としては信じないわけにはいくまい?
一つの情報が内容そのものよりも、誰が発信したかが重要になるのは、それが政治的な影響力を持つ場合だけだ。一般生活において平民がただ純粋に知識を高めようとするとき、獲得した新しい情報は内容をこそ吟味すべきであり、誰によって発信されたかはあまり気にしない方が良い場合が多い。誰が発信したかを過度に意識することは時に有害ですらある。
だが
「サウマンディアからの報告か……どれ、来ていたかな?
ん、これか……」
フーススに促されたマメルクスは玉座の隣に置かれた盆の上の書簡の束を漁り、やがて一通の手紙を見つけると自ら蝋封を切って読み始めた。フーススとフーススと共に来ていた帝国の重鎮たちはその様子を固唾を飲んで見守る。
彼らの視線を意識してかどうかはわからないが、無表情のままで手紙を読み終えたマメルクスは両眉を持ち上げ、フムと何かに感心したようなそぶりを見せた。
「こちらの方がもう少し詳しいようだな。
見れば日付もこちらが新しいようだ。」
プブリウスからの手紙にはエルネスティーネ・フォン・アルビオンニア侯爵夫人とルキウス・アヴァロニウス・アルトリウシウス子爵が連名で書いた報告書に書かれていた内容とは別に、カエソー・ウァレリウス・サウマンディウス伯爵公子と元老院議員で
「サウマンディアはアルビオンニアよりも近うございますからな。
その分、情報の質が良いのでしょう。」
読み終えた手紙を右手でヒラヒラさせながら誰に言うともなく感想を述べたマメルクスに対し、求められてもいないのにフーススが答える。
しかし、フーススが言ったことはまさにその通りで、アルトリウシアから出された手紙はサウマンディウムを経由してから届けられるため、サウマンディウムから発せられた手紙よりもどうしても遅くなる。エルネスティーネたちはリュウイチを収容した翌日の四月十一日に第一報を発していたが、プブリウスはアルビオンニウムへ派遣した調査隊の第一報を待って四月十三日に手紙を発している。そして両者の手紙は南レーマ大陸から北レーマ大陸へ渡る際に同じ船に乗せられ、同じ日にレーマに到着していた。
「どうやら、アルビオンニアで降臨が起きたことは間違いないようだ。
そういえばメルクリウスが目撃されたとか報告も、サウマンディアから上がっておったな?」
「サウマンディウムで目撃されたメルクリウスがアルビオンニウムで降臨を起こしたということでしょう。
どうやら、今回は本物だったようですな。」
あくまでもポーカーフェイスをキープするマメルクスとは対照的に、フーススはそう言いながら渋面を作った。
うまく対応できなかったことが悔しかったのか?
相変わらず右手でヒラヒラさせている手紙の方へ顔を向けたまま、フーススの表情が変わるのを横目で見たマメルクスはその手紙を盆の上へ無造作に戻した。
「さて、ではこれをどうするかだ。
できればもっと詳しく知りたいところだな。
続報は届くだろうが、待ってもおれん。
現地では余の返答を待っておる。
ひとまずムセイオンに報告するとして、こちらからも誰かを送らねばなるまいな?」
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