第276話 リュキスカ・リュウイチア
統一歴九十九年四月二十三日、朝 - マニウス要塞陣営本部/アルトリウシア
昨晩のサウマンディアの軍人二人を交えた
酒をこよなく愛する者にとっては酒を飲まされながら酔う事は許されないという、地獄としか言えないであろう
ベッドにはいつものようにリュキスカが裸で横たわっていた。リュウイチの気配に気づいて「する?」と訊いてきたリュキスカに『いや、今日はいいや』と答えると、リュキスカはベッドから降りてリュウイチから貰ったバスローブを着た。
「今日の
服を着たリュキスカはそう言って自分の
「おはようございますリュウイチ様。
突然お呼びだてして申し訳ありません。」
全員が立ち上がってリュウイチを迎え、エルネスティーネが代表してあいさつをすると早速椅子に掛けるように促してきた。
『えっと、何かあったんですか?』
全員が神妙な顔つきをしていることに胸騒ぎを覚えつつ、リュウイチは椅子に腰かけて事情を尋ねた。
「何と申しますか、当たり前と言えば当たり前な結果になっただけなのですけど…少々、我々の予想よりも影響が出るのが早かったものですから…」
『早かった?』
エルネスティーネはためらいがちに断りを入れ、リュキスカとルクレティアの方をチラチラと見ながら説明を始める。
「実は、リュキスカ様が『
『は?』
エルネスティーネがリュキスカに「様」を付けたことにリュウイチはこの時点ではまだ気づいていない。また、降臨者に抱かれた女性が「
「
ルキウスはウホンと咳ばらいを一つすると姿勢をただした。
「リュウイチ様、降臨者に仕える女性が『
『え、ええ…それで、降臨者の子を産めば「聖母」ですよね?』
以前、酒席でルキウスから受けた説明をリュウイチは思い出す。
「その通りです。降臨者本人ではなくとも、強い魔力を有する
『たしか、降臨者の血を引く子を産む可能性があるからと…』
「ええ、以前御説明した時にはそう申し上げました。しかし、もう一つ理由があります。」
『もう一つ?』
「降臨者様や
『・・・・・・』
思考が追い付かなくなってリュウイチの反応が止まってしまう。
「昨晩の
つまり、名実ともに『
部屋の中の空気がしばらくそのまま静止してしまった。リュウイチは驚きのあまり…ではあったが、他の者たちはもちろん事前に知らされている。にもかかわらず他の者たちが黙っているのは、リュウイチがどう反応するか予想が付かなかったからだ。
『えっと…確認させてもらってもいいかな?』
「確認ですか?」
『ええ、どれくらい魔力があるものなのか魔法で確認を…』
「そ、それは別にかまいませんが…」
『ディテクト・ステータス』
リュウイチがステータスを確認するとリュキスカのMPは百十八だった。ついでに他の人たちのステータスも見させてもらったがほぼ全員二十未満で、さすがルクレティアは
「いかがでしたか?」
『えっと…百十八で、皆さんの七、八倍くらいってとこですかね。ルクレティアのほぼ二倍です。』
その言葉でルクレティアの中で、何故か自分だけが取り残されていくような悔しさとも嫉妬ともつかない感情が沸き起こり、思わずキュッと下を向く。
「普通、お手が付いてから『
しかし、どうやらリュウイチ様の御力は我々の想定よりもよほど御強いようで、既にリュキスカ様は『
ここに来てリュウイチはようやくエルネスティーネやルキウスがリュキスカに対して「様」を付けて呼んでいる事に気づいた。
『えっと、それはどういう事になるんでしょうか?』
「まず、我々は今後リュキスカ様を正式に
これまではリュキスカ様はルクレティア様が
要するに内縁の妻とか側室とか、そういう存在として扱うということだ。
『それは、妻ってことですか?』
「正妻ではないにしろ、それに近い存在として扱わざるを得ません。彼女は『リュウイチア』、彼女の子は『リュウイチウス』と呼ばれることになるでしょう。
仮にリュウイチ様の心が彼女から離れ、御傍から遠ざけることになったとしても、彼女が『
「ね、ねぇ、ちょっと待っておくれよぉ」
リュウイチの左隣に座らされていたリュキスカが顔を上げて割って入って来た。
リュキスカはまだリュウイチが降臨者だとは知らされていない。彼女はお忍びでアルトリウシアに来ているルクレティアの婚約者である
ところがそれがいつの間にか身体に魔力が宿り、
「なんですかな、リュキスカ様…いや、
「む……た、確かにさ、リュウイチ様の御力は凄いよ?
アタイやこの子の病気だって一発で治しちゃうしさ、カール様だってお治しになられたんだろ?
それに、力の強い
なのにさ、アタイなんて初めて抱かれてからまだ五日だしさ…」
リュキスカの話を聞きながらリュキスカ以外の全員が、心の中でこれ以上隠すのは無理だと諦めはじめていた。リュキスカ自身も何となく察している。だが、確かめないわけにはいかなかった。
「その…ひょ、ひょっとしてさ…リュウイチ様って…降臨者様なのかい?」
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